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朝ドラ『なつぞら』で起きた「見事な転調」を賞賛すべきだ

圧倒的なきらびやかさ
朝ドラ『なつぞら』は、主役の奥原なつを演じる女優が、子役の粟野咲莉さんから広瀬すずさんに交代しました。その「転調」が見事だったと、コラムニストの堀井憲一郎さんは熱く語ります。

必死さに心打たれる

連続テレビ小説『なつぞら』は役者が変わって転調した。

最初の二週は、少女時代の話で、主人公のなつは子役が演じていた。8歳の粟野咲莉。彼女が演じていたのは、喪った少女である。戦争で父と母を喪い、また生き残った兄と妹とも別れて北海道に渡った孤児だった。

とても厳しい状況にいる女の子だ。

親がおらず、そして家さえないのだ。路上で寝泊まりしていた。あまりにも過酷である。

その過酷さのなかを生きる子供の「なつ」は、見ている者の心に突き刺さってきた。鋭いメッセージでわれわれに何かを届けてきた。

少女なつは、どう迫ってきたのか。シーンをおもいだしてみる。

『なつぞら』の最初の二週、孤児の女の子だった世界の振り返る。

第1話で、空襲シーンがアニメーションなのが新鮮だった。朝ドラでは戦争シーンを繰り返し見たけれど、アニメなので「火」が恐ろしく妖しく描かれていた。

戦後、兄と妹と別れ、亡き父の戦友に連れられて、北海道へ渡る。

彼女には何もない。だから幼いながらも必死で生きていこうとする。

その「必死さ」に心打たれる。

第1話、汚れていた彼女は風呂に入り、その家の母(松嶋菜々子)に着物を着せてもらう。その日初めて会ったにもかかわらず、彼女は「おばさんありがとう」と泣きながら抱きついた。その、心もとなさが見てる者に強く伝わる。この、1話の最後の「おばさんありがとう」で心つかまれ、すべてが始まった。

2話では、「私をここで働かせてください」と訴える幼いなつの姿に、強く揺さぶられる。他人しかいないところで、働かないと居場所がないと感じとっているなつの心情がせつない。大人を揺さぶってくる。こんなに必死で、生きるために「働かせて下さい」というセリフはなかなか聞かない。

「必ずいつかお兄ちゃんが迎えにくるって言ってましたよね。それまで働かせてください」と頼む。ここでの草刈正雄のおじいさんがなかなか怖い。「学校なんか、体を壊したら行けばいいんだ」と言い放つ。それはそれでなんだか頼もしいんだけれど。

 

「堂々と、ここで、生きろ」

3話では、牛舎を手伝うようになったなつが、牛と仲良くならねばならぬと言われ、牛にいちいち声をかけている。「いっぱい草を食べてね。フンもしてね」と叫ぶなつはとてもかわいいのだが、でもそれは自分の居場所を作るために必死で働いているからだとおもうと、ただ微笑ましく眺めてるわけにはいかない。

草刈正雄のじいちゃんはなつの頑張りを認め始めて、乳搾りをさせてくれる。うまく乳を搾るなつ、体があったかくなるように嬉しくなった。

そして4話。

荷馬車に乗せられて帯広の町まで運ばれるなつは、荷物に埋もれてとてもかわいい。長靴を買ってもらう。なつはいつも「はい」と元気よく答える。それは、自分はよその子だからだと考えてるからだろう。頑張って元気なのだ。元気さも心に迫る。帯広のお菓子屋でアイスクリームを作ってもらい、一緒に食べながらおじいさんがなつに語る。