鳥貴族の大失速が教える「商売の価格設定」こんなに難しい

「値上げ」はどれだけ影響した…?
加谷 珪一 プロフィール

吉野家は「消費低迷の罠」にはまってしまった

鳥貴族のケースは、値上げについて考える際には、価格だけに注目してはいけないということを示している。プライシングというのは、マーケティングの中でも重要な項目であり、ある意味では経営の根幹といってもよい。こうした観点で各社の値上げについて眺めるといろいろなことが分かる。

鳥貴族は躍進中のベンチャー企業だが、牛丼チェーンはすでに社会インフラのひとつになっており、成熟産業に近い存在といえる。こうした企業の場合、業績にブレが生じると、弊害が大きくなるので価格の改定には慎重にならざるを得ない。

だが牛丼チェーン各社は、牛肉の価格上昇や人件費の高騰で苦しい経営を余儀なくされている。特に吉野家の状況は厳しく、チェーンを運営する吉野家ホールディングスの2018年3~8月期決算(中間決算)は8億5000万円の最終赤字となり、通期の決算は店舗閉鎖に伴う減損が発生したこともあり60億円の赤字だった。

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吉野家は牛丼へのこだわりが強く、他社よりもメニューの多様化が進まず、これが失速の原因となった。吉野家の創業者も鳥貴族の大倉氏と同様、流通革命の志から事業をスタートしており、社歴という点では鳥貴族の大先輩にあたる。

チェーンストア理論に従えば、そして市場が健全に成長しているならば、チェーン店のメニューはできるだけシンプルな方がよく、多角化はあまり望ましいことではない。だが今の日本では消費が異様に低迷しており、健全な市場メカニズムが働かなくなっている。吉野家はまさにこの罠にはまってしまったといってよいだろう。

 

公共料金はデフレなどどこ吹く風

経営者が値上げを決断する際にもっとも気にするのは、ライバルにどれほどの顧客が流れるのかという点である。もっともライバル企業も経営が苦しいので、どこかが値上げを実施すれば競合他社が追随する可能性は高い。そうなってくると、次に重要となるのは他業態にどれだけ顧客が流れるかである。

これまで外食チェーンとコンビニは業態が異なるので、同一の顧客を奪い合う関係ではなかった。だが消費者の可処分所得が激減している今、外食チェーンの最大のライバルは小売店になっている。値下げを実施すると、ライバル店ではなく、小売店に顧客が流れてしまうので、業界全体としても慎重にならざるを得ない。