私が気になっていたのは、将来子どもを産んで母乳をあげるときに、左の胸がないことです。それはすごく悲しいし、子どもが少し大きくなって一緒にプールや温泉に遊びに行くときに嫌だなと思っていたことでした。

でもいまは、もし子どもに「なんで?」と聞かれたら、自信を持って、ちゃんと説明をすれば、「お母さんはこういう人なんだ」と分かってくれるかなと思っています。

いろいろ不自由なこと、例えば脱毛してしまったときもそうでしたが、気になることがあっても、「私はこうすればいいんだな」と工夫することで、ほとんどのことがクリアになることもわかりました。

なくなってしまったもの、済んでしまったことにくよくよするのではなく、そんなときこそ冷静に自分を見て、いまの自分に本当に必要なものは何だろうと立ち止まって考えることが大切だと思います。

外見ではなくて別のところにある価値

もともと、ルックスに自信があってアイドルになったわけではありません。

声優に憧れていて、何となく見ていたオーディション雑誌でSKE48メンバー募集が目に入って、芸能のお仕事に興味があったことから応募したのがきっかけです。

かわいくて自信を持っている女の子たちが集まるところでは、自分を他のメンバーと比べて、ブスだなあって思い悩んでしまうこともありました。

でも、病気をしたことによって、「私の価値は、外見ではなくて、別のところにある」と思うことができるようになりました。

みなさんが、外見ではなく私自身のことに興味を持ってくれているから、応援してくれたり、いつも見守ってくださったりするんだということを知ることができたのです。

それはやはり、手術して片方の胸がなくなり、抗がん剤の治療中は髪の毛も抜けてしまったことで、もう外見にとらわれるのはやめて、“私は私”ということを表現するしかない! と開き直りのような気持が持てたことが大きかったのかもしれません。

がんになって、「病気になって死ぬかもしれない」と怯えるのではなく、生きることの素晴らしさを学び、当たり前のように生きていられることに幸せを感じられるようになりました。がんと診断されたあと、逆に私自身の性格はどんどん明るくなっていたように感じています。それは、支えてくる方々の存在もありますが、私の人生は病気がすべてではないと気づくことができたからです。

自分が明るくしていると、「なんでそんなに前向きなんですか」とか、「病気になって苦しくないんですか」と言われますが、逆にがんになったら、後ろ向きでないといけないの? 毎日、悩んでないといけないの? と思います。がんになったら、人生を楽しんじゃいけないのかな、って。

がんになって、生きることの素晴らしさを知り、生きる喜びを感じているからこそ、私は明るく毎日を過ごすことができているんです。

いまを生きているということが、本当に当たり前ではないということに気がついたからこそ、こうして前向きでいられるのです。

矢方美紀(やかた・みき)1992年大分県生まれ。アイドルグループ・SKE48のメンバーとしてデビュー。「チームS」のリーダーを務めた後、2017年2月に卒業。ZIP-FM「SCK-サブカルキングダムー」のアシスタントのほか、テレビ番組やイベントでリポーターやナレーターとして活躍。現在は、自身の夢だった声優にも挑戦中。その他、自身の経験をもとにした講演や番組出演など、幅広く活躍している。初の著書『きっと大丈夫。 ~私の乳がんダイアリー』では、乳がんと聞いた時のことから治療のこと、そして現在に至るまで率直に綴るとともに、検診や病院選び、アピアランスサポートなどについても詳しく説明している。5月2日にはNHK名古屋放送が追い続けた1年間のドキュメンタリー「26歳の乳がんダイアリー 矢方美紀」も放送される

放送決定!5月2日(木)9:00~9:45 NHK BS1スペシャル
BS1スペシャル「26歳の乳がんダイアリー 矢方美紀」
特設HP https://www.nhk.or.jp/nagoya/nyugan/diary/