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アポロ11号月面着陸から50年、アメリカが再び月を目指す理由

トランプは今、何を考えているのか

なぜ再び月なのか? なぜ5年以内なのか?

今年2019年は、アポロ11号の月面着陸から50年を迎える。

1969年7月24日、ニール・アームストロング船長は、人類で初めて月に足を下ろした「ザ・ファースト・マン(最初の人類/男性)」となった。

この人類の偉業にあやかるかのように、2019年3月26日、マイク・ペンス副大統領は、自国の設備でアメリカは5年以内に是が非でも再び月に人を送りこむと宣言した。

その際には、女性のクルーも乗せ、人類初の月面を歩む「ザ・ファースト・ウーマン(最初の女性)」の誕生の可能性も匂わせている。

それにしても、なぜ再び月なのか。そして5年以内なのか? さらにいえば、なぜ公表者はペンスなのか?――これらの問いを考えることは、今のアメリカで宇宙開発が置かれた状況を理解する上で、格好の切り口となる。

今回の宣言はNASA(アメリカ航空宇宙局)の計画を5年繰り上げるものだ。

もともとNASAの計画では、有人の月面着陸の実施は2028年を予定していた。2026年までに、まずは月面着陸の拠点として、月を周回する「ゲートウェイ」という宇宙ステーションを設置することから着手するはずだった。

だが、当然、この計画のままではペンス副大統領の要請に応えることはできない。NASAの計画も再検討が必要になる。

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トランプ大統領の政治的思惑

ところで、今から「5年以内」といえば、「2023年以内」ということであり、2024年の冒頭には、今回発表した計画の成否ははっきりしている。

いうまでもなく、トランプ大統領からすれば、2020年大統領選で再選されることを見越した上でのデッドラインだ。

首尾よく2023年中にアメリカの宇宙飛行士が再び月面に降り立つことができれば、その成果は、2024年1月に行われる最後の一般教書演説で、自らの政権の業績を称えるための最高の材料となる。

一方、今回の計画を公表したペンス副大統領にしてみれば、来年の大統領選でトランプ大統領が再選されるかいなかにかかわらず、自分自身が2024年の大統領選における共和党の最有力候補者であるという自負があることだろう。

となると、自ら公表した「新たな月面着陸」の達成は、予備選を含め大統領選を戦う上で追い風となることは間違いない。

このように、NASAの予定を前倒しにしてまで月面着陸を実現させようとするのは、多分に政治的思惑から発したものと受け止めるべきだろう。

 

拡散気味だった宇宙開発の実態

実のところ、トランプ政権発足後しばらくの間は、前任のオバマ大統領同様、トランプ大統領も、月ではなく火星に関心を示していた。

当初は、さしあたっての任期の最終年である2020年までに火星に人を送ることを強く希望していたのだが――実現されれば再選の可能性は大いに高まるとの見込みからだ――、さすがにそんな短期間では、火星に人が降り立つことは不可能であると専門家たちに諭され、しぶしぶ月に焦点を移したのだという。

今回のペンス宣言に向けた一つの転換点は、2017年6月の大統領令によってThe National Space Council(国家宇宙会議)が再開されたことだった。

この会議の議長は副大統領が務め、国務長官や国防長官など閣僚トップが構成員となる。宇宙政策に関する大統領への助言機関であり、民間のビジネスと政府機関との間の調整を図ることも目的とされている。

もともとは1989年にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が設置したものだが、93年にクリントン大統領が解散させ、その後は事実上の廃止状態にあった。だからその会議の復活は、トランプ政権が宇宙開発を優先課題とすることの対外的なメッセージであった。

実際、最後に人類が月面に立ったのは1972年のアポロ17号によるもので、それ以来、NASAは宇宙飛行士を月面に送ってはいない。

アポロ計画を終えて以後は、スペースシャトルの開発や国際宇宙ステーション(ISS)の建設ならびに運用への参画など、月と地球との間の宇宙空間の開発か、あるいは、火星や木星などの太陽系内の惑星探査や系外宇宙の探索など、宇宙科学分野の新たな事実・真理の探求という方向に、NASAの活動は大きく二分されてきた。

加えて、2000年代に入ってからは、Space XやBlue Originなどの民間宇宙開発企業の参加も相次いだ。

今回のペンス宣言は、このように拡散気味になっていた宇宙開発の実態を、「人類の月面着陸」というわかりやすい計画を立ち上げることで、人びとの理解を得られやすいものに戻すという意図もあったのかもしれない。