2019.04.25
# 天体観測

あの「ブラックホール撮影成功」世界各国の記者発表を見比べてみたら

今月の科学ニュース「例の質問の本質」
熊谷 玲美 プロフィール

そして東京で国立天文台が開いた記者発表。

気になったのが、あるテレビ局から出た「ブラックホール撮影の成功が、われわれ一般の人々にどのようにプラスになるのか教えてください」という質問だ。

「直接的にはプラスにならない」というのが、国立天文台本間希樹教授の答えだ。

「ブラックホールははるかかなたの現象ですので、われわれに直接影響が及ぶことはありません。それに、近くにブラックホールがあったらとても危ないので」

科学の大きな発見があるといつも、マスコミは「これが何の役に立つのか」と質問したがる。実際、別のテレビ局が放送していた本間教授の密着番組でも、最後にその質問をしていた。

ちなみにアメリカやベルギーでの記者発表では、この手の質問はひとつも出ていない。

ただ、この「プラスになるのか」という問いかけを、少し深く考えてみたい。

「プラスになる」の本質

もちろん今回は、質問する側も答える側も、「プラスになる=日常的に役に立つ」という意味で言っているのだとは思うが、実はもっと大きな問いかけにアップグレードできるのではないか。

つまり、「人類にとってどのようにプラスになるのか」ということだ。

英文記事には、今回の成功の意味を考察した記事がいくつかあったが、一番共感したのが、サイエンスライターで詩人のアメリア・アーリ氏が「ワシントン・ポスト」紙に書いた、「この写真が重要なのは、それが写真だからだ」という言葉だ。

「ブラックホールが存在するという証拠がなかったわけではない」とアーリ氏が書くとおり、ブラックホールの間接的な証拠はこれまでたくさん積み重ねられてきた。だから研究者にとっては今回の写真は、「ジグソーパズルの最後の1ピース」(本間教授)なのだろう。

しかし「宇宙の写真は、私たちにとても大きな力をおよぼす」とアーリ氏はいう。

17世紀に初めて夜空に天体望遠鏡を向け、月の表面や木星の衛星を観測したガリレオのように、人類は「初めて天体を見たときに、その存在を信じるようになった」。

思い浮かぶのは、アポロ計画で撮影された、月面から丸い地球が昇っていく有名な写真だ。

地球1969年、アポロ11号のクルーにより撮影された地球 Photo by NASA

地球は丸いことは昔からわかっていたが、20世紀半ばまで、丸い地球を見た人はだれもいなかった。宇宙から撮影された地球の写真を見て、人類は初めて地球が丸いことを信じられるようになった。

真っ暗な宇宙空間に浮かぶ青い地球の姿は、地球環境への意識も大きく変えた。

今回撮影された「M87のブラックホール」の写真に、そこまでの影響力があるのかどうかはまだわからない。ただ、この1枚の写真から何かを学んで「プラスにする」のは、天文学者というより、「われわれ一般の人々」の役目かもしれない。

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