国民の頼みは「ツイッター」…混迷ベネズエラ、メディア崩壊の現実

人道危機の背景にある「政府の情報統制」
野田 香奈子 プロフィール

データを公開した大臣は、すぐに更迭

さらに、国内外であまり大きなニュースになっていないが、懸念されるのが、疫病に関する情報不足である。

2017年、保健省がこっそり公表した2016年の疫学データによって、ベネズエラでは2016年以降マラリアやジカ熱、デング熱、チクングニア熱、シャーガス病などの熱帯病が急増していることがわかった。

マドゥロ政府の行政責任と経済状況の悪化の影響を、如実に示すデータだった。このデータ公開がニュースになった直後、当時の保健省大臣は更迭された。

 

メリダで医療に携わる、熱帯病や公衆衛生問題に詳しい医学博士フアン・カルロス・ガバルドンは、このような疫学データが隠匿されることの深刻さを訴える。

「マドゥロ政府は、ここ3年間の感染症や非感染症の動向に関するデータを一切公開していない。さらに、年1回公表すべき疫学の報告書も2013年を最後に公表していない。

WHOやPAHO(汎米保健機構)の報告を見る限り、政府は一部の情報は集めているようだが、公開しようとしない。野党政治家が首長を務める地方自治体では、政府系の大学で訓練を受けた代用医師(キューバ式の医療教育を受けた、ベネズエラの正式な医師免許を持たない医療従事者)たちが、自治体への報告を拒否しているという話も聞いたことがある。


たとえば、2017年だけでマラリアは約40万件、2016年に比べ70%も増加しているという報告がある。10年前と比べて300%の増加だ。サハラ以南のアフリカの国でさえ、こんな増加率は見られない。

にもかかわらず、これについての公式情報は皆無だ。こんな状態で、一体どうやって状況を打開するための計画を考えたりできる? 僕たちは実際の患者数さえ知らないんだ」

「メディア・ブラックアウト」――言論統制下のベネズエラでは、電気だけでなく情報も消え、目の前は真っ暗闇だ。数歩先も見通せない。それがいまや、停電でネット接続まで不安定になり、知るための最後の手段さえ失われつつある。

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為政者をきちんと批判できるよう、国が行政や自国の状況について情報公開し、透明性を確保するというのは、国民主権の根幹に関わる問題だ。そして、ベネズエラでこれほどまでの情報規制が敷かれているのは、おそらく、自然のなりゆきでも偶然でもない。

2014年、マドゥロ政府がさまざまな情報公開をやめた時期は、それまでチャベスやマドゥロを支持していた貧困層の間で不満の声が高まり始めた時期であり、ベネズエラ全土で大々的な反政府運動が始まった時期だった。それは2015年の国民議会選挙での野党の地滑り的勝利につながった。

そしてそれは、マドゥロが従来のチャベス主義の大義名分、民主的かつ平和的に推進する革命、国民が主人公の政治という体裁を捨て、表立って一般市民への暴力的な弾圧を開始した時期だった。ベネズエラ政府中枢におけるキューバの影響が目に見えて大きくなった時期とも重なる。マドゥロ政権が明確に独裁化を始めたタイミングだった。

ここ5年間、ベネズエラで起きているのは、そういうことだ。

現在、ベネズエラでは停電のせいで給水ポンプが止まり、断水が続いている。3月末、マドゥロは水道事業のための電力確保を理由に、電力を配給制にすると発表した。そして4月8日、電力省大臣が「マドゥロの電力配給制は30日か、60日か、90日、あるいは1年間続く可能性がある」と発表した。

現状では、いくらマドゥロが配給制を敷いても電力供給が正常には戻らない可能性が高いと見られている。たとえ戻るにしても、それが30日後なのか、60日後なのか、90日後なのか、あるいは1年後なのかはわからない。