国民の頼みは「ツイッター」…混迷ベネズエラ、メディア崩壊の現実

人道危機の背景にある「政府の情報統制」
野田 香奈子 プロフィール

崩れる経済、消える統計

情報規制は独立メディアに限らない。

先日、アメリカが制裁対象に加えたベネズエラの中央銀行は、インフレやGDP、対外貿易、資本の移動に関するデータの公開をやめている。さらに国家統計院(INE)は、人口や貧困、食料品へのアクセス、公共サービスへのアクセス、生活水準に関するデータを、もう何年も公開していないのだ。

カラカス在住の経済学者アナベラ・アバディは、重要な公的情報が秘匿されている点について、「皮肉にも、経済の重大局面がくるたびに、国の統計情報は姿を消す傾向にある」と話す。

「2010年、最初に消されたのが(ベネズエラ最大の発電所がある)グリダムの水位のデータで、これはちょうど電力危機が始まったときだった。物不足に関する指数は、今となっては低い数字に思えるが、2014年、28%という、当時では記録的な数字に達して以来、公表されなくなった。価格指数が姿を消したのは『ハイパーインフレになる!』という議論が起き始めたとき」

これ以外にも、国際収支統計や、食品バスケットの指数、貿易収支など、国の経済に関わる情報のほとんどが、ここ5〜6年「行方不明」状態だと言う。

 

食料と医薬品の不足により国民の不満が高まりつつあった2014年、大規模な反政府運動が始まった。マドゥロは、これらの情報が政府批判を裏付ける証拠となって「政治利用されないよう」、ベネズエラの現状に関する情報の公開をやめたのだった。

そのため「専門家などは、不完全であれ、有志で今も集められている統計情報を頼りに、様々な判断や決断をするより選択肢はない」とアバディは言う。

一方、カラカス在住の経済学者ペドロ・ロサス・リベロは情報統制が国民生活に与える影響について次のように指摘する。

「このハイパーインフレ状態の中、一般市民やビジネスを行う人にはインフレ情報の不足が何よりも大きな影響を与えていると思う。市民にとっては、家計のやりくりや支出の計画を立てたり、報酬を調整したり、とにかく事前に計画を立てるのが難しい。

ビジネスにおいては、価格の調整や人件費の決定が難しく、収益も経費も予測がつかない。1ヵ月のインフレ率が3桁になっているとき、価格の調整が少しでも遅れると、企業は壊滅的な打撃を受ける」

4月中旬、到着した赤十字の支援物資を求めて並ぶカラカス市民(Photo by gettyimages)

独立系シンクタンク、国際危機グループ(ICG)のシニア アナリスト、フィル・ガンソンは、情報不足の中での暮らしについて、「右も左もわからないまま暮らしていかなければならず、何かを知るためには、直感に頼るか、Twitterに頼るしかない」と説明する。

「おそらく、何よりありふれた情報といえば交通情報だろう。以前は、交通情報は民営のラジオ局で定期的に放送されていた。でもラジオ局は接収されるか、大半は閉鎖してしまった。

いくつかはまだ存続しているものの、マドゥロが生放送(スペイン語で鎖を意味する「カデナ」と呼ばれ、政府広報の強制的な一斉放送)している間は、民間ラジオ放送からも情報は得られない。しかもマドゥロの生放送は数時間続くので、人々は交通情報すらTwitterに頼らざるをえない」