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タレントデビュー必成の御利益も?多様な江戸東京の神様・仏様

個人の現世利益祈願に裏づけられる

離婚達成、誘拐防止、そして美容達成まで

近世から現代に至るまでの江戸東京の長い歴史をひもといてみると、きわめて多彩な民俗信仰の実態をそこに見いだすことができる。

 

それらの特色を一言でいいあらわしてみると、個々の信仰が個人の現世利益祈願に、徹底的に裏づけられているということだろう。そこであがめられる神仏に求められた御利益の内容は、病気平癒・商売繁盛・立身出世・受験合格といった、いわばごく平凡なレベルには決してとどまっていなかった。

ギャンブル必勝(博打稲荷・鬼薊清吉墓)、離婚達成(縁切榎・田宮稲荷神社)、誘拐防止(吉展地蔵)、美容達成(化粧地蔵・白粉地蔵)などという極端な祈願を引き受けるものまであって、悩み多き世の中と欲望うずまく都市社会の断面が、そのままそこに反映されている。

きわめて現代的なニーズに応えつつ、流行先取り(龍光不動)、禁酒達成(酒吞地蔵)、航空安全(飛不動・航空神社)、スポーツ勝利(勝利八幡・金王八幡)、宝くじ当選(皆中稲荷)、タレントデビュー必成(不忍弁天)といったものさえ、最近では見られるようにもなった。

人の願いは時代とともに変わり、多様化していく。寺社の側がそれに積極的に対応してきたからこそ、話題性に富んだユニークな祈願の数々が、いくらでも登場してきたのだろう。

大都市ならではの情報密度の濃さ、そして強力な信仰エネルギーが神仏の専門店化を加速させ、時に爆発的な流行が生み出されることもあり、妻恋稲荷・太田姫稲荷などはその好例で、近年の例でいうと豪徳寺の招き猫信仰とか、各地の七福神めぐりとか宝船信仰などをあげることができる。

しかしその反面、魅力を失えばすぐに忘れ去られ、誰も見向きもしなくなるような例もよくあり、近世江戸を代表する先の二つの稲荷が現在どうなっているかを見れば、よくそのことがわかる。

都市の御幣担ぎたちは、えてして浮気性で飽きっぽく、流行に流されやすい。民間信仰の栄枯盛衰と流転の渦中で、さまざまな風変わりな神々が生み出されてきたというのも、都市民俗の特色といえる。

貧乏神を祀りあげて遠ざければ、逆に富貴にあずかることができるとの発想から、あまりありがたくもないその神を祀る小祠が牛天神(北野神社)の境内に鎮座するに至ったこと、いたずら好きの小妖怪としての狸を祀る小堂が、浅草寺や上野東照宮の片隅に登場したことなどがそれだ。

鬼を神としてあがめる神社(稲荷鬼王神社)、淡島神ではなく奪衣婆を信心する形での針供養の祭りが始まった寺院(正受院)、などなどの例もまことにおもしろい。四国や西国巡礼に行きたくとも行けない庶民のために、霊場の砂を全部集めてきて寺院境内に祀り、いっぺんに遍路を達成できる施設をあちこちに作り出してきた(西新井大師・玉川大師)というのも、いかにも都市的な信仰の形だったろう。

隅田川・谷中・山ノ手の三大七福神参りの巡拝コースが、かなり古い時代から設けられてきたことにもそれは通じ、江戸東京の庶民たちにミニ巡礼はとても人気があった。