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日本人が知らない「観光立国」キューバの光と闇

コロンビアから世界を見る③

光と闇、理想と現実

1991年のソ連崩壊から28年。いまや社会主義、共産主義を支持する日本人はほぼいないだろう。マルクス、レーニンを崇拝する人も、毛沢東を崇拝する人も、もちろん、ポル・ポトや金正日を崇拝する人など、いないはずだ。

だが、革命家チェ・エルネスト・ゲバラを英雄視する人は、少なくないのかもしれない。

ゲバラの生き方は美しく、憧れる気持ちははっきり言ってわかる。チェ・ゲバラについて、ジャン=ポール・サルトルは「20世紀で最も完璧な人間」、ジョン・レノンは「世界で一番格好良い男」と評した。蛇足かもしれないがゲバラはイケメンすぎてズルい。

キューバ革命を主導したフィデル・カストロ(左)とエルネスト・ゲバラ

今もキューバの街には、チェ・ゲバラの肖像画が至る所に存在する。今なおキューバ人から愛されているのだ。ゲバラはこんな言葉を残している。

「ただ一人の人間の命は、この地球上で一番豊かな人間の全財産よりも100万倍も価値がある」

国家から虐げられてきた人たちの心に、この言葉がどんなに響いただろうか。

キューバ革命はバティスタ独裁政権に弾圧されていた貧しい人々を解放し、「平等主義」を掲げ、理想の社会主義国家を作った。

そのはず、だった。

だがそうして誕生し、ゲバラが次なる革命の地を目指してカストロへの”別れの手紙”を残して去ったあと、フィデルとラウルのカストロ兄弟が60年間支配し続けたキューバの今は、どうなのか。人々は幸せになれたのか。

もし私が今、「キューバで生活したいか」と問われたならば、その答えは’’否’’である。

今回は、4年前にキューバを旅し、3年前からコロンビアに暮らしている私から見た、キューバの光と闇を伝えたいと思う。

 

レトロなアメ車、郷愁を感じさせる街並み

2015年、私が歩いたキューバは、他に類似した国のないユニークな国であることは疑いようがない。観光客として訪問するなら、最高に楽しい国である。

日本人にもキューバは人気だが、私が生活の拠点を置いているコロンビアや中南米諸国でも、キューバは人気のある観光地の1つとなっている。実際に私のコロンビア人の友人にも、キューバに旅行に行ったことのある人は多数いる。

まず私がキューバの首都ハバナに到着して驚いたこと。

まるでアメリカの名作映画に出てくるような、レトロな街並みが残っていたことだ。ミッドセンチュリーのレトロなアメ車がレトロな街を疾走している。世界中を旅して回った私にも、キューバは特別だった。まるでキューバだけが時が止まっているのかのようなのだ。

実にサウダージな光景。しかし、なぜキューバには、この様な光景が残っているのだろうか。それにはキューバの政治が大きく影響している。歴史を遡ってみてみよう。

キューバは1902年にスペインから独立したが、それ以降、米国の大きな影響下に置かれることになる。1933年にはアメリカの支援を受けてクーデターを成功させたバティスタ参謀総長が権力を握り、対米従属の傀儡政権が生まれた。

時のアメリカ大統領は、のちに日本にも大きな影響を及ぼした、フランクリン・ルーズベルトである(大統領在任期間は1933-1945)。

バティスタは独裁的で、国家警察に対しても実権を振るい、アメリカ資本と結びついた腐敗政治を行った。キューバの外貨を稼ぐ主要な農産物であるさとうきびのプランテーションでは、搾取により農民生活は貧困を極めた。

圧政を20年間続けたバティスタ独裁政権に対する民衆の不満が募り、フィデル・カストロらが1953年に武装蜂起。一度目は失敗したが、1956年にエルネスト・ゲバラが合流し、ヨットでキューバに再上陸。

82人の兵士を乗せた12人乗りのグランマ号は上陸時に政府軍に待ち伏せされ、銃撃によって散り散りに逃れた革命軍は12人にまで減ったが、カストロ兄弟とゲバラは運良く銃撃を逃れた。それから革命軍にはキューバの農民などが義勇兵として加わり、25ヶ月に及ぶゲリラ戦の末、1959年、革命軍は首都ハバナを陥落させる。

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ゲリラが米国の傀儡政権を打倒するという奇跡を起こして誕生したカストロ政権は、政権奪取後、米系企業の接収など改革を進めた。これに対する報復措置として米国は1961年1月にキューバとの国交を断絶。キューバへの輸出禁止を決定する。

これ以降、キューバへアメリカから車が輸入されることはなくなった。つまり、今、キューバを走っているアメ車はほぼ全て、1960年製以前の車なのである。ただ古い型落ちの車なのではなく、年代が同じなので、レトロさにも統一感があるのだ。

そして、現在は観光客を対象にした”商売道具”としてアメ車が現役で利用され、レトロな街並みを演出している。

派手な1950年代のアメ車タクシー

ハバナの夜では、サルサや音楽などキューバ独自の文化も満喫できた。キューバはかつてほぼ鎖国状態でかつ市場競争がなかったがゆえに、独自のクリエイティブが発展してきたのかもしれない。キューバのソフトパワーは興味深い。

世界最高峰と名高いキューバ特産の葉巻や、伝説のキューバ産ラム酒「ハバナクラブ」などは、国際的にも評価が高い。私もつい爆買いしてしまった。

あのゲバラも、好んで葉巻を吸っていた。映画『チェ 28歳の革命』には、喘息持ちであるにもかかわらず葉巻を吸ったゲバラが咳込むシーンが何度も出てくる。一説にはキューバの葉巻を世界にアピールする目的もあったとされる。