江戸時代、唯一外国との交易が認められていた長崎は、ポルトガルやオランダ、中国などの文化が入り混じる独特の華やぎをまとっていました。今でも目と心を澄ませて街を歩けば、かつてここに暮らした人々の文化と息づかいが伝わってきます。

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偶然の出会いに導かれ、
焼き物の町、波佐見へ。

〈デモッソ・ノット・キーノ〉でコーヒーブレイク。テイクアウトの手作りスコーンもおいしそう。/デモッソ・ノット・キーノ 長崎県長崎市樺島町2-11 ¬☎095-893-8355

街めぐりの休憩にいい店があると、知り合いから聞いていたカフェ〈デモッソ・ノット・キーノ〉に立ち寄ることにした。昭和の古いビルディングを改装した店にはポツポツと古道具が売られていて、佇まいからして店主の思い入れが詰まった空間であることがわかる。カフェスペースでコーヒーを飲んでいると、背後から「森岡さんですか?」と声が。小柄な女性が意を決してという感じで話しかけてきた。聞けば以前〈森岡書店〉を訪れたことがあるということで、まさかとは思いつつ、声をかけてみたという。

偶然訪れた〈クール・ドゥ・ジョア〉の店主も〈森岡書店〉のお客様だった。/クール・ドゥ・ジョア 長崎県長崎市興善町7-11 ☎095-821-1043

じつは長崎に来てからというもの、こんな風に街で声をかけられたのは初めてではなかった。小さな古書店で、ギャラリーで。みなさん長崎から〈森岡書店〉へ足を運んでくれていた方々だった。その女性は波佐見で雑貨店を営んでいるという。

出島の向かいにあるギャラリー〈List:〉に立ち寄り。/List: 長崎県長崎市出島町10-15日新ビル202号 ☎095-828-1951

「縁というのはすごいものですね」。偶然の出会いに驚きつつも、森岡さんはとても嬉しそうだった。

出島では商館長の再現部屋へ。畳敷きの部屋にシャンデリアという和洋折衷な造りに驚きつつも、「これはこれで素敵だよね」と森岡さん。千代紙を思わせる各部屋の壁紙にも注目していた。
出島の中にある史料館で森岡さんがひときわ見入っていた古いジンボトル。タイポグラフィも美しい。

その夜は出島の史料館に足を運び、翌朝はグラバー園をめぐった。どこへ行っても森岡さんの視線は揺らぐことはなくて、出島の史料館では商館員たちが宴を繰り広げた大広間ではなく、当時、女性で唯一出島への出入りが許されていたという遊女たちが過ごした簡素な部屋に見入り、グラバー園では貿易商人たちが暮らした邸宅の片隅にある、使い古されたベンチにそっと触れていた。

洋館のイメージが強いグラバー邸だけれど「上から見ると屋根は瓦だったんだね」と森岡さん。/グラバー園 長崎県長崎市南山手町8-1 ☎095-822-8223

「僕の興味って、偏ってますかね?」と笑う森岡さん。聞けばその古いものへの偏愛は幼い頃からだそうで、最初は小学生の頃に胸ときめかせた古切手。いわく「お小遣いもお年玉も全部切手につぎ込んでた」そう。カタログを見て目星をつけ、郵便為替を駆使して地方から古切手を買い取るなんていう技を持つ小学生はそういない。

その後はコインや古着、そして古書へ。心ふるわせるものはいつだって懐かしい薫りがして、いつかどこかの街で生きて、ささやかでも確かに生活をしていた誰かの温もりが残っていた。

グラバー園にいくつか残る洋風建築はそれぞれ趣が違って面白い。

グラバー園を後にして、このあとどうするかという話になったとき、森岡さんがきっぱりとこう言った。「これはもう行くしかありません」「どこへですか?」「波佐見へ、です。この旅では私の店へ足を運んでくださった方々との縁が多くて、ずっと不思議な気持ちがしていたんです。導かれているといったら大げさですけど、その流れに従いたいなと。波佐見の方にもめぐり会ったことですし、やっぱりこれは行けということだと思うんです」

グラバー園から海を望む。軍艦が見えて興奮!

帰りの飛行機まであと4時間はある。早足ならいくつかの窯元は回れるだろう。博物館でコンプラ瓶を前に唸っていた森岡さん。やっぱり波佐見がひっかかっていたのだ。

グラバー園の旧オルト住宅は日本茶の輸出で莫大な富を得たイギリス人貿易商人ウィリアム・オルトが暮らした家。広々としたポーチと庭、高い天井。どこか南国を思わせるような開放感があって、森岡さんもとくに気に入った様子。