江戸時代、唯一外国との交易が認められていた長崎は、ポルトガルやオランダ、中国などの文化が入り混じる独特の華やぎをまとっていました。今でも目と心を澄ませて街を歩けば、かつてここに暮らした人々の文化と息づかいが伝わってきます。
 

対州馬が教えてくれた
かつての長崎の暮らし。

名物のちゃんぽんを食べるなら〈よこはま〉へ。/よこはま思案橋店 長崎県長崎市本石灰町2-20 ☎095-821-9178

長崎と聞いて浮かぶのはどんなイメージだろう。ある人は平和公園、ある人はチューリップが揺れ、風車が回るハウステンボスかもしれない。食いしん坊ならちゃんぽんや皿うどん? 定番といったらそんな感じ。だから今回の旅の同伴者に「長崎の旅で何を見たいか」と尋ねたとき「鎖国の時代に書かれた“文字”が見たい」と言われたのには驚いた。

一緒に旅をする森岡督行さんは本好きなら必ず名前を知っているであろう書店界の風雲児だ。彼の営む東京・銀座の〈森岡書店〉では一冊の本しか売っていない。店に置くのは森岡さんが心動かされた本で、販売する期間は1週間ほど。その期間には著者が店に立ったり、関連した個展を開いたりと、本だけに留まらず、その奥に広がる豊かな世界も一緒に客に届けている。

かつて花街があった丸山界隈。

買い付けなどで国内外を飛び回る森岡さんだけれど、長崎を訪れるのは初めて。長崎のイメージについて聞いてみると、ずっとひっかかっていたという思い出を話してくれた。

「以前行きつけだった喫茶店に気になる掛け軸があったんです。『A』のような文字がひとつだけ書かれたもので。店主に聞くと、おそらく鎖国の時代、長崎にあったオランダ商館に飾られていたものじゃないかと。そのあと古書市で似たようなものを見つけたのですが、とても買えるような値ではなくて。それ以来ずっとその不思議な文字が心にあるんです」