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『ざんねんないきもの事典』の動物学者が夢中になった、10冊の本

今泉忠明「人生最高の10冊」

ホームズはシートンに似ている

私の家は父、兄、私、息子と三代、動物学者です。

私は子どもの時から外で遊ぶのが好きで、出かけたらなかなか帰ってこなかったからあだ名は「鉄砲玉」でした(笑)。夜や雨の日は読書。宮本武蔵や後藤又兵衛、荒木又右衛門。剣豪が活躍する講談の本が好きでした。

家にある本を手当たり次第に読む中で、小学校3年生ぐらいの時に出会ったのが、『シートン動物記』です。動物好きの血筋なのでしょうね。没頭しました。「シートンみたいになりたい」と思い、その憧れは大人になっても変わっていません。

今の動物観察の方法の一つに、「ブラインド」というものがあります。テントみたいなものの中に隠れ、動物が近くを通るのを待つんです。シートンもほぼ同じようなことをしていたと書いてあります。

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見通しの良い崖の上に陣取り、下を通る鹿やコヨーテを観察しています。退屈すると昼寝する。読んでいると真似したくなりました。

残念なことに、子どもの頃は近場にちょうど良い崖がなかったんですが、大人になり、ここ20年ぐらいは、フィールドワークでの「ブラインド」は定番になりました。実際に動物が来るからとっても楽しい。

 

他にも動物ものの本はたくさん読みました。ロシアの児童文学作家、ビアンキの『森の動物新聞』も印象深い。ソビエトの森の動物の生態を、四季を通して伝える内容で、書名の通り記事形式でまとめられていて読みやすい。狩人の生活も知的な視点で語られています。

特にオコジョというイタチの仲間を、バケツで作った氷の檻で捕まえる記述にワクワクしました。

学年が進むうちに、ヘッセなどの文学や、ポーのミステリーなど、いろんなジャンルの本も手に取るようになります。中でもシャーロック・ホームズは好きでしたね。でも今考えると、手がかりから推理するホームズの姿がシートンに似ているからかなと思います。

たとえば大人向けの著作『シートンの自然観察』では、動物の足跡や落ちている折れた枝などから、動物が通って行った方向や、行動を推定するなど、シートンの科学的な態度が記されていて興味深い。彼はインディアンから話を聞き、その手法を学んだといわれています。

北アメリカの先住民族とともに火の起こし方を学ぶシートン博士(Photo by gettyimages)

日本では森に行っても動物に出会うことはまずありません。でも痕跡は残っているため、こういった観察手法が大いに参考になります。だから、森に行った時に役立つ本が私にとっては重要。ボロボロになるまで読み返しているものも多いです。

ノーベル賞を受賞した動物学者、ティンバーゲンの『足跡は語る』も素晴らしい一冊。動物が地面に付けた足跡の写真が掲載され、その足跡はどんな行動をしていた時のものか、イラストなどで詳細に解説されていて、足跡の見方を学べます。実際の動物の姿が想像できるんです。

パンダの発見・飼育史

フィンランドの学者、クルテンの『哺乳類の時代』は、化石から動物にアプローチしている内容。恐竜滅亡直後、暁新世、始新世と始まった哺乳類の時代に、どんな動物がいたかを解き明かしています。

化石から客観的に、周囲の地理的な環境を復元してイメージし、動物を研究しているから面白い。馬の祖先が犬ぐらいのサイズだったなんて、想像するだけで楽しくなります。

パンダ』はイギリスの動物学者、モリスの一冊。彼は『キャット・ウォッチング』など『ウォッチング』シリーズが人気を集めましたが、これはパンダをどのように発見し、生体を連れ帰って世話をしたのかという発見・飼育史が詳細に記されていて読み応えがあります。

動物を研究していると、人間の由来も知りたくなる。比較して読んで良かったのが、『ブッシュマン』、そして『狩人の大地』。

前者はアフリカのブッシュマン、後者はオーストラリアのアボリジニ、という先住民の生活を記した本です。どちらもベースは狩猟採集生活ですが、前者はライオンと共生し、後者は犬と協力して狩りをするところなど、違いがあってとても面白い。

現代の人間の中にも、動物時代の行動の根が潜んでいて、それを制御できないと犯罪に手を染めるのか、など、日常のニュースを見ながらもいろいろ考えてしまいます。

本から得る知識は確かに大きい。ですが、実際にその知識を確かめてみることがとても大切です。たとえば森の中で動物の痕跡を見つけた瞬間、知識が想起され、結び付く。それが醍醐味なんです。

75歳になった今も森の調査で、一緒に行く子どもたちにそんな話をします。それが文化を伝えるということなのかな。(取材・文/佐藤太志)

▼最近読んだ一冊

「富士山も月一で調査に行く場所。土の層が多彩で、地質により生息する動物が異なり、非常に面白い環境です。この本は氷河期までもさかのぼり、富士山の地形の成り立ちを解説していて、森の調査にも役立つ一冊です」