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私の親友が外国人上司に激怒して転職を決意するまで

突然の解雇通告、不当な人事評価……
佐藤 優 プロフィール

まず、今回の解雇対象となった人たちの状況を正確に把握しなくてはならない。豊島君は、解雇を言い渡された一人一人に自分の携帯からメールを打った。携帯からメールを打ったのは、会社のメールからだと監視されている可能性があるからだ。

「今回の件はあまりにも突然のことであり気の毒でならない。ショックが大きいと思うけれど、私の方でも何とか次の職場を探したいと思っているので、落ち着いて行動してほしい」というメッセージを豊島君は送った。

それと同時に、2年前にゆうちょ銀行に行った元AIS(注 あおぞら情報システム。同行のシステム管理運営を請け負う子会社だったが解散させられた。豊島氏は、元AISの社員多数を、ゆうちょ銀行に転職させるべく尽力した)のメンバーに連絡を取って、追加でゆうちょ銀行に入れる余地がないかどうか探った。もちろん豊島君は、誰にも相談せず、秘密裏に行動した。

豊島氏は自らの解雇も恐れず画策した(photo by iStock)

現職の部長である豊島君が、陰でこそこそ解雇された人たちを救うため画策していることがCTOに知れたら、豊島君も解雇されるリスクがある。しかし、そんなことはもはや気にならなかった。豊島君は、有能な部下の生活を守ろうとしているだけなのだけれど、ノーマンにしてみると自分が決めたことに対する反乱と映るだろう。

 

もちろん、自分が解雇されるリスクはあるが、しかし、そのリスクよりも仲間を助けるのが人間として当然の道と思った。だから豊島君は、怯むことなく解雇された人々の再就職に向けての行動を続けた。

ゆうちょ銀行側は、2年前のときとは事情が変わっていた。当時は民営化して間もない時期であり、一刻も早く組織を拡大し充実させる必要に迫られていたが、それから2年の間にあおぞら銀行からの50人を含め、中途採用が進み、今はそれほどの切迫感はなかった。

もっとも、中途採用を継続的に実施して組織の拡充を進めていたので、通常の中途採用の枠組みの中で希望者に対して面接を実施してもらうことにした。もちろん自分で次の就職先を考えたいという人には強要せず、ゆうちょ銀行に応募したいという人だけ豊島君が窓口となって応募書類を取りまとめ、ゆうちょ銀行に送付した。

そのような背景があったので、今度は応募者全員が合格というわけにはいかず、何人かは不合格となった。残念なことではあったが、できる限りの力は尽くしたと自分に言い聞かせた。

人が転職を決意するとき

解雇される予定の部下たちを何とかゆうちょ銀行に入れようと働きかけているうちに豊島君の心境にも変化が生じてきた。

ノーマンCTOは自分の腹心の部下を連れてきて日本人のCTO副担当に据えていた。秘書も連れてきた。あおぞら銀行に元からいる行員は、CTOとのアポイントを含め、すべてその秘書を通さなければならなかった。「相談したいことがあれば、前もってメールに書いてノーマンとCTO副担当に送るように」と秘書から言われた。指示通りにメールを送ると、日本人のCTO副担当からノーマンの意見や指示が下達されてくる。そいういうコミュニケーションになっていた。会議室以外の場で豊島君たちとノーマンが直接話をする機会はまったくなかった。

江戸時代に、身分の低い武士は御家人と呼ばれ、将軍に直接拝謁することは許されなかった。そういう人たちのことを「お目見え以下」と言う。豊島君たちは、「お目見え以下」の扱いをされていた。

そもそも「お目見え以下」の待遇で、CTOとの間で信頼関係が成り立っていなかったところに今回の突然の部下たちの解雇でその信頼関係にますますヒビが入った。西原前CTOが「社長に豊島を執行役員にしてくれと推薦しておいた」という話も、ノーマンが後任になったことで消えた。

最後に決定打となったのは6月のボーナスの評価だった。豊島君は5段階評価の下から2番目の「2」という評価だった。約30年間の銀行員生活において「2」を受けたのは、初めてのことだった。ノーマンCTO本人からは何の説明もない。代わりにCTO副担当から説明を受けた。今回は危機管理室の人にはみんな「2」を付けたという話だった。

東日本大震災発生時の対応が良くないために、銀行全体に大きな混乱を招いてしまったからだ。6月のボーナスの評価というのは、前下期半年間の評価になるから、2010年10月から2011年3月までの評価が反映されたものになる。

この間、豊島君はアプリケーションマネジメント部長であって危機管理室長ではなかった。危機管理室長になったのは東日本大震災が発生した後の4月になってからだ。つまり、豊島君の評価は今の危機管理室長としての評価ではなくて、その前のアプリケーションマネジメント部長としての評価でなければならない。不当な仕打ちだ。