なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?

徹底的にストレスのない物語を求めて
津田 彷徨 プロフィール

競合はスマホゲーム

さて、このようななろう系小説に関しては、一部では「異世界日記」などと表現されることもあるようですが、それは言い得て妙だと思います。

日記であるがゆえの日常体験……つまりリアリティを感じられる程度の過剰過ぎないギリギリの幸福が持続し、物語が緩やかな上昇カーブを描くことが、読者を満足させる一つの最適解と考えられるからです。

これはなろう系が二次創作だけではなく、「日常系」(大きな事件が起こらないのんびりとした日常を描く漫画やアニメのジャンル)の延長線上に存在するとされる理由でもあるのですが、これらの傾向はPCからのアクセスよりもスマホからのアクセスが増えた頃より顕著となっています。

実際のところ、この変化はおそらく2015年頃より著明となっています。理由は明快であり、日常のスキマ時間などにスマートフォンで毎日なろう小説を読むという習慣の結果だと考えられます。

スキマ時間にちょっと気持ちよくなれるコンテンツをスマホで消費する――言うなれば現在小説家になろうの作品が闘っているのは、商業ライトノベルではなくスマートフォンゲームなどとの時間の奪い合いなのだと言えるかもしれません。

〔PHOTO〕iStock

それを如実に反映しているのは、小説家になろうにおける作品一話あたりの文字数の最適値……つまりランキングに上がるためにポイントを稼ぎやすい文字数は5年前に比べほぼ半減している事実がこれを根拠づけます。

PCからのアクセス比率が高かった2013年頃は、ランキングを上がるために最適な作品の一話あたりの文字数は5000文字以上となっていました。しかし現在は2000〜3000文字が、1話あたりの最適な文字数となってきています。つまりこのことは、読者が毎日一作品に対して割く時間が短縮されて来ているということを意味します。

 

もちろんこの文字数の変化は、日常の一部になろう小説を取り入れてもらうための変化の結果なのでしょう。スマートフォンで隙間時間に作品に触れるのに最適な分量を追求した結果なのですから。

言い換えればこの文字数という観点、そしてストレスを排除した作品の渇望は、日常と小説とがネット小説投稿サイトという場を介して地続きとなっていることを示唆していると見て取れます。

一般的にSNSとの連動性が高いと言われるネット小説ですが、無数の例外はあるものの改めてこうしてその人気の成立過程と置かれている環境を踏まえると、ストレスフルな現代社会に対するある種の救いとしてなろう系小説が求められていると言えるのかもしれません。