なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?

徹底的にストレスのない物語を求めて
津田 彷徨 プロフィール

読者が「プロデューサー感覚」を抱ける

実際に編集者が介在しないために、作者と読者との距離感が極めて近いことがWEB小説の特徴です。

読者も作者も互いに作品に関して会話を重ねる感想欄という場が用意されており、作中の誤字からストーリー展開に至るまで、ここで作者と読者の間で交わされた会話は物語に反映されることもしばしば見受けられます。

その意味においてWEB小説の読者は、自分の気に入った作品や作者を育てる監督であり、そして作者や作品をランキングの上位や商業へと羽ばたかせるプロデューサーの役割を担います。言ってしまえば、あの作者はワシが育てたという認識を得ることができるとも言えるでしょう。

これは商業という場において明らかなアドバンテージとなります。何しろデビューしたての新人にもかかわらず、最初から自分を育てたと認識してくれているファンがたくさんついてくれているのですから。

この点は一般的な新人賞出身の作家に比べ、商業面に置いてもWEB小説出身者の大きな優位性となってきました。また見方を変えれば、最初から読者が多数ついた新人作家という異例の存在であるWEB出身作家は、作品の刊行にあたり自己プロモーションが既にWEB上でなされています。

それ故に低コストの宣伝費用で済むことから、新文芸と呼ばれる新たに生まれた無数の出版社のレーベルに置いて重宝がられた一面があるとも言えるでしょう。

 

ストレス値の高い回で読者が離れる

さて、この読者と作者の蜜月関係。一見すること望ましいことばかりであるように感じられますが、考え方によってはこれは物語制作の上である種の制限が生まれることを意味します。

この文章を読んでいる人において、日常で不幸な出来事やストレスを好む人は多くないでしょう。それと同様に、ネット小説の読者も不幸な出来事やストレスを極端に嫌います

これは小説家になろうの作品群が二次創作に端を発したこととも重なりますが、作品の主人公に対し俺ならばと自己投影された物語が少なからず存在し、そして読者も自己を投影できる主人公を好む傾向があります。

だからこそ作者もそして読者も現実の自分と登場人物を重ね合わせ、主人公に不快な思いをして欲しくないという感情や、鬱な展開を忌避する傾向が顕著に現れます。

実際にこれらは小説家になろうの話数別のアクセス解析という機能を使用することで、明確に数字をもって主人公が不幸となった回で明確に読者離れが起きていることが把握できます

また小説家になろうのランキングを統計処理しても、物語の谷とも呼べるパートでは如実に数字の低下を認めることがわかっています。

鬱な展開で読者離れが起きる→その結果がアクセス解析によって明らかになる→それを作者が見て鬱な展開を避けようとする……といった具合に、循環的にストレスがかかる展開が排除されていくことになりえるのです。