なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?

徹底的にストレスのない物語を求めて
津田 彷徨 プロフィール

しかしこうした作品の作者は設定やストーリー進行を「似せる」という認識ではないと考えられます。

むしろ、和歌の作成技法である本歌取り(古典の一部を取って新たな作品に用い、作品の世界に膨らみを持たせる技法)に極めて近い「解釈による二次創作文化」が、このサイトの根底に存在するが故であると考えられるのです。

このなろう的本歌取りを用いた作品作りのことを、私はゲーム制作ソフトをもとに『ツクール的作品作り』と表現しています。

プログラム言語を知らなくても、またキャラを描けなかったりBGMを作曲できなくても、RPGツクールと呼ばれるゲーム制作補助ソフトを使用すればゲームを作り上げられるのと同様、小説を書く際に参考となる様々なパーツを共有物として使用できるわけです。

 

激しい競争の中で、作品は日常に組み込まれる

なろうテンプレではない作品も含みますが、そうして無数の作品が創り上げられた結果、現在では小説家になろうに存在する小説作品はなんと64万作品に及びます。一般的な小説新人賞の応募作品数が100作〜6000作品と考えれば、この数がどれだけ膨大で圧倒的であるかがわかるかもしれません。

しかしながらこれだけの数が存在するということは、内部における作品間の競争は熾烈を極めます。何しろ近い題材をモデルにして、近い作品構成をした作品が山のように存在するのです。

その中で一歩抜け出すためには、読者に受けるための様々な努力を重ねていく必要があります。

その努力の数々は非常に興味深いものがあります。

例えばその努力の一つは物語を提供する時間にあります。WEB小説は読者にとってSNSなどに性質が近いWEBメディアの一つです。だからこそほぼ毎日に近い連載を行い、歯磨きや食事と同じ感覚で読者の日常の中に自分の作品を組み込んでもらうことが重要です。

これを可能とするのが、WEB小説ならではといえる編集者を介さない物語づくりです。つまり常に作家が自分のタイミングで物語を読者に対し直接出力し続けられる環境の強みが、この「日常の中に物語を組み込む」という試みを可能としているのでしょう。

〔PHOTO〕iStock

ただ当然ながらこのシステムにも欠点はあります。例えば独りよがりとなりえる作者の物語づくりを、物語づくりに関するプロである出版社の編集者はより良い方向へ正してくれることも少なくないからです。そんな編集者が介在しない作品において誰が作品を導くのか……それはWEB小説の読者なのです。