「私にとって舞台は、一番大切な“学びの場”です」

4月20日から、TBS赤坂ACTシアターで上演される舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』の稽古場で、斉藤由貴さんは自身の舞台への情熱をそんな風に表現した。

舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』『アルカディア』、映画『恋に落ちたシェイクスピア』などの作品で、日本でも多くのファンを持つトム・ストッパード。『良い子はみんなご褒美がもらえる』は、そんな英国演劇界の巨匠が、俳優とオーケストラのために書き下ろした異色作である。

独裁国家の精神病院の一室に、堤真一さん演じる政治犯の男と、橋本良亮さん演じる「自分はオーケストラを連れている」という妄想に囚われた男が送り込まれる。二人はそれぞれに、想像することの自由と、信じることの自由を主張した――。

舞台上には35人のオーケストラと、厳選なオーディションで選ばれた7人のアンサンブルが登場し、振付師としても活躍するオリヴィエ賞受賞のウィル・タケット氏が、全ての登場人物の中から、言葉と音と身体の持つ“表現”を最大限に引き出していく。彼は、「自由のために、我々は何を放棄する心の準備があるのかについて、場所と時間の間を揺れ彷徨いながら、じっくりと考えることができます」とコメントしている。休憩なしの約75分。斉藤さんは、堤さん演じる政治犯の息子であるサーシャに、体制のなんたるかを教え込もうとする女性教師を演じる。

自己嫌悪やマンネリズムと戦い、
身体と心が痛めつけられて……
だからこそ生きている実感がある

――デビューからずっと、コンスタントに舞台に出演されていますね。

斉藤:それはやっぱり、東宝の人間なので(笑)。20歳の時に、帝国劇場の『レ・ミゼラブル』で初舞台を踏んで以来、1990年代は、少なくとも年に一本、多い時になると年に3本は舞台に出演していました。

――舞台に立つことに、俳優としてはどんな意味があると感じていますか? また、舞台には、どんな魅力があると思いますか?

斉藤:舞台は……。一つすごくはっきりしているのは、あの…………嫌な思いをいっぱいする。ふふふ。それは、こと役者という職業に関しては、最も大事なことだと私は思うんです。“自己嫌悪に陥る”“マンネリズムと戦う”“同じ演技と何度も何度も向き合う”……。そんな中で、自分の矮小さを思い知らされたり、自分に絶望したりしながら、身体と心が痛めつけられて、毎回すごくヒリヒリします。でも、だからこそ生きている実感がある。

カンパニーの中では、自分が舞台に上がっているとき以外の時間も、みんなと向き合わなきゃいけないし、これはドラマでも映画でもそうなんだけれど、一人の職業人として周囲との関係性も構築していかなければならない。

あとは、身体的に、自分が普段いかに怠けているか。そんな残酷な現実も突きつけられたりします。でも、自分のできなさ加減や自己嫌悪に何度も向き合っていく経験こそ、舞台の醍醐味だと思うんです。総括していうと、私にとって舞台は、一番の“学びの場”ですね。

――斉藤さんは、役者としてだけでなく、歌やラジオなど、声のお仕事でも活躍されています。詩を書かれることもある。ドラマや映画など、映像も含め、様々な表現活動に従事なさっていますが、その中でも、舞台は学びの場として特別なのだとしたら、それはなぜですか?

斉藤:はっきりと自覚していることですが、私はとても頭でっかちで、観念的なところがあります。特に演技では、よく、頭で考えたことだけを頼りに動いてしまう。それが、とても危険なことだと最近思うようになったんです。

私はもともと言葉が好きで、つい、言葉で自分を納得させてしまうところがある。常に周りを観察することで、頭の中がせわしなく動いて、その結果がお芝居になるのは仕方のないことかもしれない。でも、本当の意味でのピュアな、感情の発露って、頭で組み立てた感情表現じゃなく、脳をすっ飛ばした、もっとストレートな身体表現なんじゃないかと思うんです。

熱いものに触った時、人は、とっさに手を離します。あれは多分、脳に電気信号で、“熱い!”って届く前に、身体が反射していると、何かで学んだ覚えがあります。それと同じで、人間同士、喧嘩したり泣きわめいたり、あるいは拒絶したり抱きしめたりする時って、いちいち感情が脳内を通過してないような気がする。なのに、お芝居でセリフを言って演技するときは、必ずセリフは一回脳内を通過するんですよね。

だから、現実の出来事と比較すると、タイムラグが生じてしまう。なんか、ものすごく神経質なことを言ってるように聞こえるかもしれないんですが(苦笑)、とにかく私は、演技を「する」んじゃなく、舞台の上でも、瞬間的な反射をしたい。そのほうが、演劇表現としてはずっと難しいし、大げさに聞こえるかもしれませんが、崇高であるような気がしていて、それがいつも私の課題なんです

頭の中で、感情を組み立てなきゃいけないっていうのは、自分の中の余計な思い込みです。丁寧に演じようとしているように見えるかもしれないけれど、演者としての身体能力が、研ぎ澄まされていないんでしょうね。私はそういうところが軟弱なんです。頭でっかち。もっとなんとかしないといけないなといつも思います。