本のプロや芸人が選書!旅先で読みたい本・自分の子供に読ませたい本

GWは終わってしまうけれど、これから迎える夏季休暇やお盆休みなどの旅行のお供にもおすすめしたい名著を、旅好きな書店スタッフやブックコーディネーターなどがセレクト。そして、後半では読書芸人のカズレーザーさんが選ぶ、自分の子供に読ませたい本をご紹介します。

本を読むことは
旅の準備の第一歩

SHIBUYA PUBLISHING &BOOKSELLERSの鈴木美波さんセレクト

本屋の仕事に就いてから、はじめて自分で企画したトークショーは旅にまつわるものでした。テーマは「世界に地図がなかったら」。道しるべとなる「地図」を持たずに見知らぬ地を歩いてみたら、どのような体験が待っているのか? ということを、旅する写真家の方にお話しいただきました。

旅をテーマにしたトークショーを企画するきっかけを作ってくれたのは、民俗学者の宮本常一さん。日本中を旅しながら、その土地で暮らす人々とたわいもない会話をするのが宮本流。

会話から拾うことができる文化の片鱗は、先祖代々ことばだけで伝わってきたことも多く、教科書には載っていない知恵と工夫を凝らした日本人の暮らしが浮かび上がってきます。自分で行き先を決め、自分だけを頼りに歩くという旅で得られる経験は何にも代えがたいということを知りました。

忘れられた日本人
宮本常一 著/岩波文庫(1984年)
日本各地をくまなく歩き、民間伝承を調査した著者。文化を築き支えてきた伝承者がどのような環境に生きてきたかを、伝承者自身が語るライフヒストリー。

鈴木美波 Minami Suzuki
合同会社 SHIBUYA PUBLISHING & BOOK SELLERS SPBS事業部マネージャー。書籍や雑貨のセレクト、イベントの企画立案を行う。

 
●情報は、2018年6月現在のものです。

 

本は旅のスパイスに

かもめブックス店主の柳下恭平さんセレクト

本を読むだけの人間を、僕は信用することができない。うん、ちょっと言い過ぎたかもしれない。でも、たしかに、本には世界の秘密の半分が書かれているかもしれないけれど、当たり前だけれど、残りの半分は書かれていないからね。それは、音楽だったり、恋人だったり、映画だったり、日々の食事だったり、特別な食事だったり、友人との会話だったり、エトセトラエトセトラ、そのようなものから得ることができると思う。大切なのはインプットのバランスだ。

だから、僕は旅が好きだ。旅は、受動的でも、能動的でも、自発的でも、迎合的でも、豪遊でも、清貧でも、ひとりでも、友人でも、少し緊張する関係性でも、歩いても、自転車でも、モーターバイクでも、レンタカーでも、自家用車でも、列車でも、飛行機でも、いかなる組み合わせでもあり得るし、組み合わせによってまったく違うものになる。そこがいい。

グレープフルーツ・ジュース
オノ・ヨーコ 著/講談社文庫(1998年)
「想像しなさい」「聴きなさい」といった言葉で著者の美意識を表現した詩集。名曲「イマジン」を生み出すきっかけにもなった。

柳下恭平 Kyohei Yanashita
書籍校閲専門会社「鷗来堂」代表。書店「かもめブックス」店主。世界中を放浪したのちに、編集者から校閲者に転身し、現職。

 
●情報は、2018年10月現在のものです。

本と旅は一行や一瞬によって
もたらされる個人の宝

numabooks代表の内沼晋太郎さんセレクト

本と旅のどちらが好きか迷うところだ。遠くへ連れて行ってくれる本もあれば、圧倒的な風景を目前にしてどんな大作家も描けないはずだと確信する旅もある。それは本来、個別のものだ。

この本が最高だ、あの場所が感動的だというのは、建前にすぎない。何でもない一行、何でもない一瞬が、その人の記憶やことばと混ざり合って、個人の宝になる。そういうところがあって、どちらもやめられない。

ぼくは管啓次郎さんの『斜線の旅』が忘れられない。島々を旅しながら、現地のことばや神話や、鳥の名前や誰かの旅を取り込み、目の前にあるものを見る。その往復によってもたらされる管さんの感動が、丁寧に紡がれた文と初見の不思議な固有名詞により、遠く向こうに見えてくる。まるで管さんが指差し語りかけてくるようで、それは旅そのものだった。

斜線の旅
管啓次郎 著/インスクリプト(2009年)
ニュージーランドを拠点にしたポリネシアの大三角形踏破を軸にした紀行文。島旅の快楽、旅について、書くことについて綴られる思考のクロニクル。

内沼 晋太郎 Shintaro Uchinuma
numabooks 代表。ブック・コーディネーター。自社で新刊書店「本屋B&B」と出版社を経営。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

●情報は、2018年5月現在のものです。
 

失ってしまった
日常の価値を取り戻す

表現研究者の菅俊一さんセレクト

以前、観光地と呼ばれている場所の近所に住んでいた時のことだ。見慣れた建物や食べ物に対して楽しそうに写真を撮っている人々を眺めながら、多くの人にとっては特別な物でも、慣れてしまうと価値は失われてしまうということを実感したことがある。そんな経験からか私は、旅というものを、慣れることで失ってしまった日常の価値を取り戻すための手段だと考えている。旅先では、普段は気にも留めないマンホールやゴミ箱も、何故か特別な物として気になって見てしまう。

「価値を取り戻す体験ができる」というのは、実は旅と本の共通点なのかもしれない。例えば『100の指令』は「口の中をベロで触って、どんな形があるか探ってみよう。」などの指令に従いながら、長年連れ添った自分の身体や感覚にもまだ発見があることを実感できる。

100の指令
日比野克彦 著/朝日出版社(2003年)
著者が考えた100個の「指令」を収録した想像力のエクササイズ本。生活の中で想像力を駆使できる指令が数多く紹介されている。

菅俊一 Syunichi Suge
表現研究者/映像作家。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、様々なメディアを用いて社会に提案することが主な活動。

 
●情報は、2018年8月現在のものです。

本は、その土地の地図になる。

エッセイストの平松洋子さんセレクト

旅に出るときは、行き当たりばったりの時間を大事にしている。知らない路地を適当にうろついたり、地元の喫茶店で新聞を読んだり、通りすがりの居酒屋の暖簾をくぐったりするうち、土地と馴染む実感が湧いてくる。旅先では、何でもない時間のほうが、むしろ自分が深く開いてゆく感覚がある。

土地について書かれた本を読むのが好きだ。言葉を通じて匂いや空気が立ち上がってきて、自分なりの地図が構築されてゆく。

『築地』は、人類学および日本文化研究者、ハーバード大学教授のテオドル・ベスターによる一冊。築地市場が果たしてきた機能を詳細に論じ、その意味と価値を解き明かす。豊洲移転を目前に控え、日本人は何を手放し、失おうとしているのか。その答えがここにある。

築地
テオドル・べスター 著/木楽舎(2007年)
17年以上に及ぶ築地研究をまとめた大著。経済、流通、食文化、消費、制度、社会、伝統、歴史など築地魚市場の全貌が明らかに。

平松洋子 Yoko Hiramatsu
エッセイスト。食文化と暮らし、文芸と作家をテーマに幅広く執筆している。著書に『日本のすごい味』(新潮社)など他多数。
 

●情報は、2018年9月現在のものです。
 

ぼくが旅に出る理由、
ときどきためらう理由

精神科医の星野概念さんセレクト

ここ1年くらいは国内の様々な場所に、1泊とか日帰りで出かけています。旅の習慣がなかった自分に、きっかけを与えたのは酒です。ハマるとどこまでも知りたくなる性質が自分にはあるようで、日本酒を好きになって飲み倒しているうちに友人の輪が広がり、酒蔵に行って話を聞いたり、旅先で好みの飲食店を知ることに強い喜びを覚えるようになりました。最近は酒の歴史をたどり、古事記を読んで神社を巡り始めています。
 
今回選書するにあたり、酒のように自分の旅ごころを刺激する本を選びました。この『ポテト・ブック』は、伊丹十三訳というだけで購入した、ポテト愛に溢れたポテト料理の本です。伊丹十三はアメリカのポテト料理を「百発百中、絶対にうまい」といいます。今のところ、自分はポテト料理をあまり好きではありませんが、これを読んでいるとアメリカに行って確かめたくなるのです。

ポテト・ブック
マーナ・デイヴィス著 伊丹十三 訳/河出書房新社(2014年)
最も美味しいポテトの食し方をユーモラスなイラストで表現した料理本。ポテトにまつわるすべてが伊丹流の洒脱な訳で綴られている。

星野概念 Gainen Hoshino
精神科医。ミュージシャンなど。総合病院に勤務する傍ら執筆も行う。著書に、いとうせいこうとの共著『ラブという薬』がある。

 
●情報は、2018年11月現在のものです。
 

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