「太ったままでいる権利を守る!」米国で起きた肥満を巡る闘争の軌跡

ファット・アクセプタンス運動とは何か
碇 陽子 プロフィール

ボディ・ポジティブ

ボディ・ポジティブという考え方は、見かけや体型の画一的な基準から自由になり、多様性を認めようというものだ。

この考え方は、私が知る限りでは、摂食障害の回復を目指す人たち(セルフヘルプグループや臨床の専門家など)によって自己の身体イメージを改善するために用いられ、やがて、昨今の性差別に反対するMe Too運動などの一連のフェミニズムの流れから勢いづいたものであるようだ。

一様に同じ美しさの基準に照らし合わせて、そこから外れていると嘆き、無理なダイエットをしてリバウンドを続け、自尊心を傷つけるのはもうやめよう。皆の身体がそのままで、それ自体で美しいのだという、女性たちへのメッセージが込められている。

そして、市場もこのトレンドに乗ろうとしている。例えば、女性誌のイギリス版コスモポリタンは、2018年10月号の表紙にプラスサイズのモデルTess Hollidayを起用した。

彼女のインスタグラムのコメントには、「肥満を奨励するな」「すごい自信だけど、あなたのBMIは不健康だ」などのたくさんのネガティブなコメントがついたのも事実ではある。

また、これまではあり得なかった、多様な体型のモデルを採用した女性用下着が市場に展開され始めている(こうした下着が注目される背景には、アメリカの某有名女性用下着メーカーの過激にセクシーな下着モデルに対する批判もあるだろう)。

太っていることを恥じるのではなく、自分自身のありのままの身体を好きになろうと、画一的な美の基準からの解放を呼びかけるメッセージは心地よい。

当事者たちが、「痩せ規範」から解放されることが可能になるようなこうした流れを好意的に受け止める人は多い。ただし、私の実感としては、こうした動きの中で「痩せ規範」は弱まっているものの、別の画一的な美を設定する動きが出てきているようにも見える。

 

近年では、減量は、「ウェルネス」「デトックス」「クレンズ」 などの言葉に置き換わり、ガリガリに痩せるのではなく、「健康的な美しさ」を目指そう、という新たな規範が生まれてきているようにも思うのだ。

例えば、2018年に、アメリカの一大ダイエット企業のウェイト・ウォッチャー(Weight Watchers)は、名前をWWというロゴに変えた。Wは「体重」だけではなく「ウェルネス」を表し、「減量」だけではなく「健康」にフォーカスを移そうという意識の現れであるらしい。

ファット・アクセプタンス運動

もう一方の、ファット・アクセプタンス運動は、公民権運動の全盛期の1960年代にアメリカで誕生した運動で、フェミニズムや障害者運動などの考えを受けながら展開してきた 。ボディ・ポジティブの考え方に影響を与えているが、それよりももっと古いルーツを持ち、よりラディカルだ。