「太ったままでいる権利を守る!」米国で起きた肥満を巡る闘争の軌跡

ファット・アクセプタンス運動とは何か
碇 陽子 プロフィール

一番確実な減量方法?

痩せるために胃を切り取ったり縛ったりするなんて馬鹿げていると思うかもしれないが、実際、アメリカでは、減量のために肥満手術をする人が増えている。2011年に推定15万8000人だった施術者は、2017年には22万8000人と、毎年着実に増加している。

私の知り合いの話によると、医師は、保険会社との取り決めにより、診察の際に肥満のカテゴリーに入る人に対して減量について言及しなければならないという。しかしながら、冒頭に書いたように、食事制限による減量は成功しないということは医師も分かっているので、代わりに、肥満手術を割合と簡単に勧めるらしいのだ。

 

しかも、カイザーなどの大手の医療保険会社は、肥満手術に対してそのコストを保険でカバーする。医療保険会社が肥満手術のコストをカバーするということは、つまり、肥満手術によって、将来的に肥満によって引き起こされるといわれる病気(糖尿病や高血圧など)のコストを削減することができると考えられているわけだ。肥満手術は、今のところ、一番確実な減量方法だという認識があるのだ。

最近では、南カリフォルニアにある肥満手術のクリニックが、不必要な肥満手術によって保険会社に保険金を請求するという詐欺事件まで起こっている 。

肥満手術が思った以上に手軽に行われていることがうかがえる事件だ。

肥満手術の広告〔PHOTO〕Gettyimages

確かに、術後は、食欲が抑えられ体重が減少し、それに伴い健康が改善すると言われる。コレステロール値や血圧は下がると言われているし、糖尿病だった人は術後にインスリンを打つ必要がなくなることが多いし、肥満に伴う睡眠時無呼吸症候群もなくなると言われている。

とはいえ、肥満手術をした人は、ビタミンやミネラルなどの栄養素不足、下痢などの消化に伴う困難の他、様々な副作用とともに生きていかなければならない。

画一的な痩せ規範からの解放

著書『「ファット」の民族誌:現代アメリカ社会における肥満問題と生の多様性』でも紹介したが、アメリカで出会ったマイク(仮名)は、数多くのダイエットを試しリバウンドを繰り返した末に、最後の手段として肥満手術を受けた。

彼が受けたのは、胃の上部にバンドを巻いて締め付け、食事量を制限するタイプの手術だった。この手術は、胃を上方部と下方部に分け、上方部の胃に食事が入ることによって満腹感を得ることが期待されている。しかし、彼は術後のひどい副作用(吐き気や嘔吐など)に苦しみ、結局は胃に付けたバンドを取り外す手術を行った。

彼の場合は元に戻せる手術だったが、胃の一部を切り取って小さくするような術法であれば元には戻せなかった。その後、彼は、ダイエットを辞めた。ダイエットを辞めてから、彼は自転車に乗るようになった。以前よりも、自分の身体を受け入れるようになったという。

ダイエットが成功しないならと、肥満手術という「極端」な減量方法を最後の頼みの綱とする人たちがいる一方で、マイクのようにダイエットを辞める人たちもいる。後者の人たちは、痩せていなければ美しくないという画一的な美の規範からの解放を目指し、身体の多様性を受け入れようとする

ここ最近の小さくないトレンドであり、その流れを支えているのがボディ・ポジティブファット・アクセプタンス運動だ。一つずつ説明していこう。