1990年代にサンタモニカで開かれた太った人々の集会〔PHOTO〕Gettyimages

「太ったままでいる権利を守る!」米国で起きた肥満を巡る闘争の軌跡

ファット・アクセプタンス運動とは何か

Diets don’t work

アメリカでは、ここ40年間くらいで、太っている人の数は増加の一途をたどっていて、国民の40%近くが肥満だと言われる。

経験のある方も多いと思うが、食事制限によるダイエットはなかなか成功しない。大抵の場合、短期間では体重を落とすことができても、長期間それを維持するのは難しく、多くの人は元の体重に戻るか、それ以上の体重増加をすることもある。

いくつかの研究でも、食事の制限や運動で、長期的に減量した状態をキープするのはかなり不可能に近いことが、学術的にも指摘されている。ダイエットは成功しないのだ(Diets don’t work)。

そして昨今、減量の最終手段としてアメリカで注目されているのが、肥満手術である。

ここでは、肥満手術を例にアメリカ社会に強い「痩せ規範」が浸透している現状を概観しつつ、それに対抗する動きとして、「体型の多様性」を擁護しようとする「ファット・アクセプタンス運動」などを紹介しよう。

 

肥満手術クリニックにて

今から10年前のことだ。サンフランシスコ市内にある肥満手術クリニックで月に一度開かれる、肥満手術を受けたいと考えている人たちのためのセミナーに参加したことがある。肥満手術とは、大雑把に言えば、痩せやすくするために、胃の入り口の部分を縛ったり、胃の一部を切除してサイズを小さくしたりする手術のことだ。

その日は、当事者と家族を含め、20人ほどが参加していた。クリニックの医師は、セミナーが始まるなり、「肥満は遺伝です」と切り出した。話は続く。「その上、文化的スティグマが強い。しかし、肥満手術という方法でそのスティグマから抜け出せる」。医師はパワーポイントを使いながらを淡々と説明した。

その後、胃と胃を取り巻く内臓の仕組みを丁寧に説明し、各タイプの手術では胃のどの部分を施術し、どういう仕組みで減量できるのかを述べていった。手術による合併症の話になった時、医師はこう言った。「肥満手術を受けて起こるかもしれない合併症のリスクと、肥満のままでいた人が将来それに関連する病気になるリスクは、後者のほうが高いと言えます」。

パワーポイントの最後のスライドには、病院が開いている術後のサポートミーティングで知り合って結婚したカップルと二人の子どもの写真が写し出された。「この子は将来私の患者になるでしょう。だって、肥満は遺伝するからね」。医師はそうオチを言うと発表を締めくくった。

〔PHOTO〕iStock

セミナー終了後、隣の部屋で開かれていた手術を受けた人たちのサポートミーティングに合流することになっていた。会場には既に総勢70人ぐらいがいた。

肥満手術を受けて痩せた人たちが、何パウンド痩せて「変身」したかを一人ずつ言っていく。100パウンド(約45キロ)痩せたからマラソンをし始めたとか、5年で120パウンド(約54キロ)痩せたとか、食べても食べても170パウンド(約77キロ)痩せることができたとか、自信ありげに述べていた。

その様子を、手術を受けようか受けまいかいまだ決めかねている人たちが後部座席から眺めている。

私はそれまでにも減量クリニックや減量グループを観察したことはあったが、このセミナーほど、減量による「変身」の成功についての異様な高揚感に包まれている現場を見たことがなかった。医療機関が強い「痩せ規範」を植えつけていることにも驚きを隠せなかった。