「ポスト・プーチンはやっぱりプーチン」と噂されるロシアへのため息

無秩序な政権交代には耐えられない
河東 哲夫 プロフィール

そしてそれは、海外でのロシアの行動にも表れてきた気味がある。

3月24日にはベネズエラに、ロシアの兵員100名が送り込まれた。2015年9月シリアにロシア軍が進出した時のように、「米国が無法に覆そうとしている」マドゥーロ大統領を護り、同時にロシアの利権も維持しようとするものだ。

そしてロシアは、中央アフリカ共和国にも1500名もの傭兵を送り(「ジェームズタウン財団」HP、18年11月6日)、リビアではロシアが支援するハフタル将軍が率いる反政府の「リビア国民軍」が首都トリポリを占拠しつつある。

シリアで活動するロシアの民間軍事会社Wagnerの傭兵600名は2018年2月、ロシア軍には無断で地元油田の制圧を試み、米軍特殊部隊に殲滅されている(「ジェームズタウン財団」HP 、18年2月15日)。

これらの動きが、どこまでクレムリンの一貫した指揮の下で行われているのか、判然としない。米国の鼻を明かせるところ、そしておいしそうな利権が転がっているところなら、どこにでも首を突っ込んだソ連時代の悪い癖が蘇ったように見える。

だがロシア国民は米国と同じく内向きになっており、「海外での冒険より自分達の生活を」と考えているので、今に怒りを示し始めるだろう。

そして、要人の中には権力闘争に備えてか、爪を見せ始める者も出てきた。野心家で知られるヴォロージン下院議長は4月6日、「政府に対する議会の監督権限を強化するため」憲法改正を提唱した。

これまで議会は、大統領が提示してくる首相候補を承認するだけで、大臣人事には介入できなかったのを、大臣・次官級人事にも議会の承認を必要とするべきだと言うのだ。

ロシアでは、議会の議長は不吉な運命をたどってきた。1991年8月クーデターではルキヤノフ最高会議議長が反ゴルバチョフのクーデターに加わったし、1993年10月にはハスブラートフ最高会議議長が反エリツィンの旗を掲げて議会に立てこもり、戦車での砲撃を受けている。

ヴォロージンはまだそこまで旗色を明らかにしていないが、元々その野心を嫌われて、2016年10月に大統領府第一副長官から下院議長に体よく追い出された人物なのである。

昨年夏以来、全国で「爆弾をしかけた」という偽電話が相次ぎ、1年で100万人もが緊急避難している(「ジェームズタウン財団」HP 、1月31日)ことも、社会液状化の印象を強める。昨年の大みそかにはウラル地方のマグニトゴルスクで、4月2日にはサンクト・ペテルブルクの軍学校で実際に爆破騒ぎが起き、死傷者が出ている。

そして最近、盛んになってきた民間軍事会社(要するに傭兵企業)は、国内で軍事訓練をしており、国内の治安には不安要因となっている。昨年11月には、傭兵会社E.N.O.T.社の国内拠点数カ所に手入れがあり、要員が国内テロを企んでいたとして逮捕されている(「ジェームズタウン財団」HP、2018年11月15日)。

 

和解か瓦解か

かくてロシアはじり貧、かつ液状化の傾向にあるのだが、このトレンドを破ることはできる。最も有効なものは、米国との和解であろう。

米国とロシアの経済関係は、貿易額が僅か約200億ドルであるように、大したものではないのだが、米国がロシアを制裁するとそれは甚大な作用をロシアに及ぼす。

石油・ガスを掘削するための最新技術が入って来なくなるし、第4次産業革命のための技術もしかり。そしてもし米国が、米国の銀行にロシア企業へのサービスを停止するよう命ずると、ロシア企業は外国との取引でドルを使うことができなくなり、大きく困る。

しかしトランプ大統領はロシアを脅威とは考えておらず、抑えつけた上で取り引きのできる相手と考えている。

これまでは「大統領選におけるトランプとロシアの共謀」を追求する民主党の圧力で何もできなかったが、モラー特別検察官の報告書がトランプを「クロ」と認定しなかったことで、ロシアとの関係を進めやすくなっているだろう。

4月21日のウクライナでの大統領選で大統領が新人のゼレンスキーに代われば、クリミア問題収拾の形をつけることも不可能ではあるまい。そしてそれを、ロシアの世論は支持するだろう。

この機会を逃すと、米国が国防予算を増やす中でソ連が対抗しようとして自滅した、1985年ゴルバチョフ政権の二の舞となるだろう。「ゴルバチョフの二の舞だけはしたくない。ロシアはうまいやり方で米国の軍備拡張に対抗する」とプーチンは言っているが。