「ポスト・プーチンはやっぱりプーチン」と噂されるロシアへのため息

無秩序な政権交代には耐えられない
河東 哲夫 プロフィール

ほころぶガバナンス

その中で、社会、ガバナンスの液状化が進んでいる。1つは、「モスクワから地方へ」という垂直の指令体制にほころびが見えることである。

最近は地方の知事交代が目立つのだが――概ねクレムリンの指示で新顔が知事代行を務めたあと、選挙で正式に就任する例が多い――、選挙の際に与党「統一」の推薦を忌避する者が増えている。

「統一」とはヌエのような政党で、要するにソ連時代の共産党のように中央・地方のエリートを全部網羅した上で、そこから共産主義イデオロギーだけ除去した特権集団なのだが、今では社会の目ぼしいポストをどんどん奪い、その守旧的体質で社会を窒息させるばかりか、公私混同の体質で一般人の怒りを招いている。この政党の推薦を受けるのは、今やマイナスというわけなのだ。

9月には16カ所で知事選挙が行われるが、うち6カ所では現在の知事代行が無所属として出馬する(「カーネギー財団モスクワ・センター」HP、 3月19日)。

そうした所では、「統一」が地方議会の与党のままではまずいというので、選挙制度を操作するところもある。つまり小選挙区・比例の議席配分をこれまでの50:50から75:25に変えてしまうのである。こうなるとクレムリンは、「統一」の組織を通じて地方政治を操作することができなくなる。

 

もう1つは、保守勢力がソ連スタイルの強権的取り締まりを強化することで、社会とのずれを拡大していることである。2年前、メドベジェフ首相の豪華な私生活が暴かれたが、政府は批判をそらすために首相より下のレベルの高官の不正摘発を強化した。

2001~05年には3名の高官が摘発されただけだったが、2018年だけで議員も含めて35名が摘発されている。この2年間で摘発されたのは経済大臣、高名な劇場監督、内務省幹部、高名な外国人投資家、市長、知事等に及ぶ。

ラウフ・アラシュコフ上院議員に至っては、検事総長が議場に踏み込んで逮捕免除特権の剥奪を要求し、議場で逮捕している。

3月26日の深夜には、元「開かれた政府担当」大臣(政府の電子化等を担当)ミハイル・アビゾフの自宅に官憲が踏み込み、家宅捜査の上、彼を逮捕した。これはスターリン時代の粛清を髣髴させるものである。

ロシアや中央アジアのような集権・強権主義国家の警察・公安は、上からの指令を「過剰に遂行する」。それが彼らの体質だし、褒章を期待してもいるのだろう。しかしそれは、社会や世界の反発をくらって、逆効果となるのである。

そして3月28日には、イシャエフ・元ハバロフスク地方知事が逮捕され、自宅拘留となった。これは地元での権力・利権闘争の結果で、中央の捜査機関の指令によるものではないようだが、それは公安・捜査機関も地元の権力闘争に利用されるようになったことを示す。

かくてエリートの間では猜疑心、恐怖心が芽生えている。2024年のプーチン退陣を前に、検察、公安を利用しての権力・利権闘争が早や始まっているのではないか、自分の方から仕掛けないとやられてしまうのではないか、という懸念だ。

このように、ロシアのトップは先に進まなければならないことがわかっていても、ソ連時代の記憶が染みついた下僚は後ろに進んでしまう。ガバナンスの統合失調なのだ。