「ポスト・プーチンはやっぱりプーチン」と噂されるロシアへのため息

無秩序な政権交代には耐えられない
河東 哲夫 プロフィール

始まった社会の液状化

西側では、「ロシアは大国。プーチンの権力基盤は盤石」と思っている。しかし、ロシア社会の液状化は確実に始まっている。それは昨年6月、政府が年金制度改革を発表した時に端を発する。

政府は年金財政が赤字を拡大していくことに危機感を持ち、年金支給開始年齢の大幅引き上げに踏み切った。男性はそれまでの60歳を65歳に、女性は55歳を63歳に引き上げるというのである(10~15年かけての話しであるが)。

西側なら何とか納得されるこの手の話も、男性の平均寿命が67歳余のロシアでは到底受け入れられない。40年近く積み立てた年金を、ほとんど利用できないことになるからだ。

この年金法改正にプーチンが署名したことで、彼は国民の信頼を大きく失った。これまで国民が彼を支持してきたのは、彼の下で職業が安定し、賃金も上がって来た――つまり彼は「何かくれる指導者」だった――からなのだが、ここで彼は「国民を騙してカネを巻き上げる指導者」に転じてしまったのである。

80%台だった支持率は65%を割り、彼を信頼する者は3月初めで32%に下落して(「ラジオ自由ヨーロッパ」3月8日)、まだ回復の気配を見せていない。

 

2000年からのプーチン時代は、10年で5倍にはねあがった原油価格に助けられ、GDPが6倍にもなる驚異の成長を達成したが、2008年のリーマン金融危機で原油価格が急落して以後は、鳴かず飛ばず。ロシア人の実質所得はこの数年、縮小を続けている。

そして2018年5月、プーチンが第2期就任に当たって掲げた経済政策は、パンチに欠ける。それは「世界平均以上の経済成長」という漠然たる目標を掲げているが、それを実現する手段が説得力に欠けているのである。

2024年までに27兆ルーブル(約47兆円)を投じてのインフラ建設が目ぼしいものだが、それは建設資材を中心とするインフレしか招かないだろう。

第4次産業革命については、「これはロシアの死命を制する」という言葉だけで、電子産業、情報・通信インフラへの投資が全体のそれぞれわずか0.6%、4%(「高等経済学院付属経済センター」資料、3月28日)でしかない現実をどうする、という具体性を欠く。

そして2014年のクリミア併合で西側が制裁を課していることが、実質所得の縮小による閉塞感に輪をかける。

10年前は中産階級にとって当たり前になっていた、欧州への休暇旅行も実入りが減った今では我慢せざるを得ない。制裁で世界の仲間はずれになってしまったという実感が、ロシア人の心理を蝕んでいるに違いない。

世論はクリミア併合自体は広く是認しているが、米国憎しで沸いたのはすっかり忘れ、今では半数以上の者が西側との関係改善を求めるに至っている(「モスクワ・タイムズ」4月1日)。

プーチノミクス、プーチン・モデルは賞味期限を迎えたのである。