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「ポスト・プーチンはやっぱりプーチン」と噂されるロシアへのため息

無秩序な政権交代には耐えられない

ナザルバエフ院政の意味

旧ソ連の一国、カザフスタンでは3月19日、1991年のソ連崩壊以来、既に27年強も権力の座にあるヌルスルタン・ナザルバエフ大統領がテレビ演説で突然辞任を表明、憲法の定めに従って上院議長のカスムジョマルト・トカーエフ氏が大統領代行を務めることになった。

元々来年春に予定されていた大統領選挙は、6月9日に前倒しで行われることとなる。ナザルバエフは大統領を辞任するものの、議会で圧倒的多数を握る与党ヌル・オタンの党首のまま、しかも外交、軍、警察、諜報を一手に握る共和国安全保障会議の議長の地位は手放さず、「院政」を敷くつもりでいるようだ。

公職を辞した後も党中央軍事委員会の主席であり続けることでにらみを利かせた、中国の鄧小平のやり方を踏襲しているのである。

ナザルバエフは辞任を表明する数時間前、ロシアのプーチン大統領に電話した。既に20年弱も権力の座にあり、2024年には退場を運命づけられているプーチンは、ナザルバエフの決意を聞いて、背中を押される思いだったことだろう。

ロシアの憲法は大統領の3選を禁じている。

しかしロシアのように計画経済の跡を強くひく国では、少数の者が経済の特定分野の差配を独占する。彼らは実質的に、大統領の「任命」を受けるのだ。

それは、ソ連時代の「石油工業大臣」や「商業大臣」に似ているし、貴族が国王の「安堵」を受けて領地を支配した封建制に似ているとも言える。石油利権を握るセーチン、軍需・先端技術工業を握るチェメーゾフ、建設・金融部門に君臨するローテンベルク兄弟と、「領主」は枚挙に暇がない。

大統領が退場すると、ロシアでは権力と利権のガラガラポン、あるいは今ロシアのメディアが言っている「万人の万人に対する闘争」(17世紀英国法学者トーマス・ホッブスの言)が始まり、国内は大いに荒れるのだ。

ソ連崩壊直後の1990年代初頭、モスクワやサンクト・ペテルブルクでは、本当に血で血を洗うマフィアの抗争が繰り広げられたのである。もしこれに、社会の不満が重なって暴動が起きると、それは1917年の革命のような騒ぎとなる。

ロシアは34歳以下の者が全人口の43%を占めるという「若い国」なのだが(実際は平均寿命が72歳余で、老人が少ないからなのだが)、一部の社会学者が指摘するところでは、政府を批判する集会に参加する層は「若返って」いるのと同時に、より貧しくなっている。

彼らの要求は民主主義等の抽象的なものではなく、社会的な公正、保障を求める左翼的なものとなっている。そして彼らは思い込みが強いと同時に、恐れを知らない(ポール・A・ゴーブル)。今後彼らの生活不安が嵩ずると、暴力的な反政府活動に出かねない。

 

西側の格付け機関ムーディーズは2月、実質所得の低下を指摘し、「無秩序な政権交代」(unorganized regime change)をロシアのカントリー・リスクの1つとして挙げた。

これが意味することは何かと言うと、プーチンもナザルバエフのように早めに院政への転換を図っておかないと、側近同士が権力・利権闘争を開始し、もしかするとこれが社会の不満に火をつけて、収拾がつかないことになりかねないということだ。

プーチンはまだその気配を見せないが(中央、地方では人材の若返りを着々と進めているが)、メディアは既に「プーチンの後はどうなる?」という議論で喧しい。それは、こんな具合だ。

・プーチンは憲法を改正してまで3選をはかることはするまい。大学で法律を学んだプーチンは、かねてロシアを「法治国家」にするのを、自分の信条としているからだ。
・かと言って、2007年の時のように一旦首相職に退き、4年後に大統領に返り咲く便法を取るには年齢的に不安がある。彼はもう66歳だし、ロシア男性の平均寿命は67歳強だ。
・従って、社会の液状化を防止するためにはプーチンが院政に早めに移行してその庇護の下で次の大統領を定着させていくしかあるまい。
・例えば「国家評議会」のような名の下に最重要事項を決める機構をでっちあげ(憲法に定めがないが)、その長にプーチンを据えるのがよかろう。「プーチンの後はプーチン」だ。

――云々。