改正入管法の裏に隠された、外国人を巡る日本の「不都合な真実」

Session-22✖️現代ビジネス
荻上 チキ, 山口 元一

「もう、お前らは要らない」

チキ 今挙げていただいた非正規滞在者数のピークの頃と比べると、現在はその半数以下になっているということですよね。

山口 今は半数以下ですね。2018年7月、直近の統計だと6万9346人。激減ですね

チキ それだけ摘発を強めているということですか。

山口 最近になって摘発を強めた、というよりは、先ほど説明したとおり、日本の外国人、日本の求める外国人というのは、「より安く」「より定住しない」「より管理が行き届いた」という3つを備えている存在で、制度が変わるたびに新しくそうした性質をより良く備える外国人が導入されるわけです。

そうした「都合のいい」日系人が来れば、それまで日本にいた非正規滞在をしていた外国人については「お前らは要らない」という話になる。すると、非正規滞在者に対する社会の目は冷たくなる。その後日系人がより安価で、定住しない、管理の行き届いた研修・技能実習生が増えれば否定的なレッテルを貼られる…構図は同じです。

非正規滞在者についてもう少し具体的にいうと、2003年に「不法滞在外国人対策の強化に関する共同宣言」というのを法務省と東京入管と東京都と警視庁がキャンペーンを行い、政府の「犯罪対策閣僚会議」が「不法滞在者5年半減計画」を作ったりしています。あるいは不法滞在者に関するメール通報制度――入管のウェブサイトで一般市民に向けて「ビザのない人がいたら通報せよ」という制度――が2004年に始まる。

あらゆる制度を駆使し、市民まで動員して非正規滞在者を減らしにかかるわけです。この試みは、南米の日系人とその家族が数を増やしていくのと軌を一にしているんですよね。

チキ なるほど。「安全」と思われる外国人が増えたから、オーバーステイ(非正規滞在者)はどんどん帰ってねということなのでしょうか。それまでは黙認だったのが排除へと変わっていく、と。

確認なのですが、入管法には、そもそもオーバーステイの人を追い返さなくてはならないと書かれているわけではなく、「帰すことができる」と同時に、「在留許可を与えることができる」と両方書かれています。「オーバーステイだから追い返さなきゃ」というイメージを持つ人も多いと思いますが、良くも悪くも裁量権を持っているのは法務省ですよね。

山口 そうですね。

先ほどから説明しているとおり、日本の過去約30年間の入管法制は「より安い」「より定住しない」「より管理の行き届いた」外国人を追い求めてきたものの、もちろん別の選択肢もあり得たのです。

たとえば在留資格のない外国人が30万人いるとします。彼らが日本の労働市場を支えているとなったときに、では代わりの外国人を——具体的には日系人とその家族だったわけですが——連れてきて、彼らを追い出せというのではなく、「アムネスティ(特赦)」する、市民として日本の社会に受け入れるという方法もあったと思うんです。

その後、日系人が大勢来て、日本の労働市場で厳しい状態に置かれている時に、より安価で、管理の行き届いた、確実に3年で帰る研修・技能実習生を国際貢献の建前で使い倒そうと考えるのではなくて、サポート体制を充実させて日系人に手を差し伸べるという方法もあった。

でも、そのたびに日本の法制度は、より都合のいい外国人を導入し、そうした新しい制度の元で外国人が来ると、「今までいた人はいらない」という方向で動いてきた。

チキさんがおっしゃったように、裁量をどちらにも使うこともできたはずなんです。追い出す方向にも、在留を認める方向にも使えた。日系人についても、裁量は追い出す方向にも使えたし、日本社会にうまくインテグレート(統合)する方向にも使えた、と。でも、後者の方向には使わなかったということですよね。

 

技能実習制度の固定化

チキ さて、ここまでが2000年代までの話です。ここから現在に至るまではどうだったのかをうかがいます。

2010年 技能実習制度の変質と固定化

チキ 2010年にもまた入管法が改正されることになりました。その後も改正の動きがありましたけど、どういった改正が行われたんでしょうか。

山口 先ほど説明したとおり、2010年には在留資格「技能実習」が創設され、従来の「研修」の期間が「技能実習1号」に、技能実習の期間が「技能実習2号」になります。技能実習に従事するすべての外国人は、「労働者」であるとみなしたということです。従来の研修制度は、座学としてのみ存続する、と。そういう改正がなされました。

ただ、抜本的な改正ということでは当然なかったわけです。