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記憶力は「たった10分の軽い運動」でアップすることが判明

カギは「海馬を活発化」すること
私たちは、日々身の回りで起きるさまざまな出来事を脳で整理し、細かく記憶している。そのおかげで、朝起きたときから混乱することなく生活することができる。
少し違う環境下におかれたときでも、記憶をもとに違いを判断し、適応しているのだ。記憶はまさに私たちが生活するための大切な基盤となっている。

その記憶力を手軽にアップさせられないものかと思ったことはないだろうか。それができるらしいのだ。10分程度の簡単な運動で脳が刺激され記憶力がアップするという研究成果を、筑波大学の征矢英昭(そや・ひであき)教授らの共同研究グループがまとめた。
(サイエンスライター 藤井友紀子)(プレスリリースはこちら
 

記憶のカギは「海馬」にあり

記憶は長期記憶と短期記憶に分けられる。

自分が経験した思い出などの「エピソード記憶」や学習で得た知識、運動や楽器の演奏など体で覚えるものは長期記憶にあたる。一方、電話番号を聞き取ってメモするまでの一時的なものは短期記憶に分けられる。

今回、研究チームが行ったのは、エピソード記憶の実験だ。

記憶には、脳のほぼ中央に位置する海馬が深くかかわっている。目や耳、鼻などから入ってきた記憶のもととなる身の回りの情報は、大脳の表面を覆う大脳皮質から海馬に入力される。海馬内では「歯状回」「CA3領域」とよばれる部位を通り、再び大脳皮質へ出力する。この一連の神経回路が働くと、外界から得た情報が「記憶」となって脳に残る。

海馬は脳のいろいろな部位からの指令を受け、その情報を整理し記憶にかかわるシステムを働かす役割をもっている。

海馬 Photo by Getty Images

脳全体には約1000億個の神経細胞があり、複雑な神経細胞ネットワークを形成し情報を伝えている。

近年まで、脳の神経細胞は減少するのみで新たに生まれることはないとされてきたが、歯状回では、運動することで新しい神経細胞が生まれることがわかってきた。新しく生まれた神経細胞が既存の神経回路に組み込まれることで、学習・記憶力を機能的に向上させると考えられている。

脳の活動を解析する「高磁場MRI」

これまでに研究グループは、独自に開発した手法と装置を使ってラットやマウスに運動させ、一過性の低強度運動が歯状回を含む海馬の神経細胞を活性化し、学習・記憶力が向上することを確認している。

それなら、ヒトではどうだろう。ヒトにおいても、一過性の低強度運動によって海馬、とくに歯状回が活性化し、記憶力が高まるのだろうか。そこに関心があった。

しかし、ヒトの海馬は脳の深部にあり、小さく複雑な形をしているため、その活動状況を細かく調べるのが難しかった。

そこで今回の研究では、米カルフォルニア大学の共同研究グループが開発した高磁場MRIを使った。MRIは「磁気共鳴画像装置」の略称。強い磁石などを使って体の内部を撮影する装置だ。「高磁場」というのは、その磁石が強いことを意味している。

MRIMRIの製造現場 Photo by Getty Images

高磁場MRIは、人間ドックなどで使われる医療用のMRIと基本的には同じ装置だ。医療現場では磁場強度が1.5テスラのものが主に普及しているが、今回の高磁場MRIは3テスラで磁石が強い。

そのため、神経活動を短時間で、しかも高解像度で撮影できる。