「知られざる皇室外交」がこの国にもたらしたもの

退位の前に知っておきたい

新元号も発表され、天皇陛下の退位まであとわずかとなりました。両陛下は31年の在位の中で、親善や慰霊のため、さまざまな国を訪れました。

日本の皇室報道は外国を訪問の際にも「お人柄報道」になってしまいますが、新聞記者として海外支局なども歴任した西川恵さんは、外国での受け止め方はまったく違うことに気付き、『知られざる皇室外交』で皇室が外交で果たしてきた役割に光を当てました。退位を前に、改めて皇室外交とはなにかについて振り返ります。

(取材・文/角川新書編集部)

皇室外交とはなにか

――「皇室外交」というのは、一般の人には耳慣れない言葉かもしれません。

西川:天皇は象徴ですから、宮内庁は「皇室に外交はない」と言って皇室外交という言葉を使うのを嫌がります。新聞やニュースなどでもあまり使っていませんから、耳慣れないのも無理はありません。外務省は使っていますけどね。

天皇、皇后両陛下をはじめとする皇族の方が外国を訪れることによって、その国との親善が図られるのはもちろんですが、両国の関係が改善したり、より緊密になったりします

それを総称して皇室外交と言っています。とくに両陛下の訪問は、条約を結んだり、交渉をしたりすることではもちろんありませんが、相手国の対日世論を劇的に改善することもあり、親善の一言では収まらない効果をもたらしてきました。

――西川さんが皇室外交ということを意識されたのは、いつぐらいからですか。

西川:特派員で海外に出てからです。僕はテヘラン、パリ、ローマと海外に12年ぐらいいました。外から見る皇室と、日本の中から見る皇室というのは、見え方が違うことに気付いたのです。

外国が天皇を招くときには、日本の最高権威である元首として招きます。日本で元首という言葉を使うと非常に物議をかもしてしまいますが、日本の国内の議論はどうあれ、外国は天皇を日本の権威として招くわけです。日本の天皇皇后というのは、極めて政治的脈略の中に置かれるのです。戦前、戦中の反省もあって、日本では皇室および天皇皇后を政治的脈略で見るのを避けていますが。

 

――日本では、政治とは無関係であることを強調しますね。

西川:新聞社では皇室は基本的に社会部が担当しています。したがって天皇皇后が外国訪問をされたときの報道は社会面であつかわれ、いかにそのお人柄が愛されたか、身近な存在であったかという人間的な側面に集中します。いわゆるお人柄報道で、それは戦後ずっと続いてきています。

でも外国は、両陛下を元首として政治的脈略の中で迎えます。天皇を招くことで日本との関係をより良くしたい、という目的があるわけです。ですから外国では天皇皇后の訪問は政治面で扱われます。

そういったことが外国にいると見えてきたのです。日本で見ていた皇室とか天皇の意味合いがかなり違う。そこから関心を持って調べだしました。

――海外の皇室に対するスタンスの違いを実感されたときのことを教えてください。

西川:フランスのミッテラン大統領のときのことです。今の明仁天皇がフランスに行ったときに、晩餐会のスピーチでミッテラン大統領が「日本の国連常任理事国入りを支持します」と言いました。日本側は、天皇というのは政治にはかかわらないという立場ですから、宮内庁はあわてました。そんなことを言われても、天皇は政治には無関係ですから、というわけです。

フランスの立場からすると、天皇は、政治権力はなくても日本の最高権威でしょう、その人を迎えた場で、日本に対するフランスの立場を鮮明にすることは当然なこと、とアピールしたのです。日本とフランス政府のズレを目の当たりにしました。

――フランスとしては当たり前のことであり、むしろいいことを言った、と思っているわけですね。

西川:そうです。日仏関係を象徴することを言ったまでなのです。でも宮内庁の立場からすると、「困ったなぁ。そういう政治的な言われても聞き置くだけ」、となるのです。

ただ日本の外務省はまた違っていて、ミッテランは日仏関係が緊密であろうというシグナルを出したな、と受け止めます。外務省と宮内庁の受け止め方にもズレが生じるわけですね。