「膝が曲がる義足」との出会い

3歳の夏になると、新たに膝が曲がる義足が登場した。

当時としては最先端の技術が詰まったニューバージョンの義足だったが、私としてはげんなりだった。膝が曲がる義足をつけて膝折れに注意しながら歩くのは、この時点ではすっかり意欲を失ってしまっている私にとって高度すぎた。

平行棒の間に立つ。先生が私の腰のあたりに手を添え、腰を左右に振る動き、左右の足を振り出す幅などを指導してくれる。膝ががくんと折れないように、踵から先に着地するよう教えられる。

「最初は10センチぐらいの歩幅だよ。少しずつね」

私は返事もせずに先生に視線をやる。

足が前に出ない。むっとした表情のまま、平行棒の間で身体がぐらぐらと揺れる。無理に踏み出そうとしたその瞬間、膝が折れて転びそうになり「ああっ!」と叫んで平行棒にしがみついた。すかさず後ろから先生の手が伸びてきて、私を抱きかかえてくれた。

平行棒の外でも練習は続く。先生に正面から肩を支えてもらいつつ両足を交互に振り出すのだが、完全に腰が引けている。体幹の筋力が弱いせいだ。足が外に向いてしまったり、踏み込んだ左足の膝が折れて倒れそうになったりする。

「ぼく、義足はイヤだ!」

そう言わんばかりの表情で、私は平行棒に寄りかかった。

電動車椅子の方が楽しい

そんな日々に、救世主が現れた。電動車椅子だ。

『五体不満足』の表紙のビジュアルの通り、乙武氏と電動車椅子は相棒のような関係だ 

吹く風が心地よい秋晴れの日、母とともに東京都補装具研究所を訪ねると、そこには完成したばかりの子ども用電動車椅子が用意されていた。

子ども用といっても、いま私が使っている電動車椅子と機能的な遜色はほとんどない。座席が上下に移動することと、右手側に走行を操作するコントローラーがついていることの二大特徴は、この1号機から備わっていた。

義足の練習とは大違いで、私の表情にもワクワク感がみなぎっている。

初めて電動車椅子に座った日。青木主税先生の横でニヤリ 写真/『頑張れヒロくん―四肢欠損児3歳10ヶ月の記録―』(東京都補装具研究所小児切断プロジェクト)より

電動車椅子がこれからの長い人生の相棒となることを知ってか知らずか、私は少し戸惑い気味の表情を浮かべながらも座席に腰を下ろし、胸のあたりを安全ベルトで固定した。コントローラーの操作方法を教わるのもそこそこに、習うより慣れろでコントローラーのレバーを手前に倒し、どんどん前に進んでいった。

外に出た。駐車場にはいくつものぬいぐるみが等間隔に並べられている。ペンギンさんやクマさんたちを倒さないように、蛇行しながら進んだ。

課題クリア。楽しくて仕方がない。

あっけないほど短時間で電動車椅子の操縦法をマスターした私は、駐車場での練習が終わるとそのまま正面入口の自動ドアから研究所に入り、エレベーターに乗り込んだ。狭いエレベーターの中でUターンを決めて左隅のポジションに収まるやり方なんて、いまの私とまったく同じだ。

時速3キロの電動車椅子。これに乗れば、風を感じながら楽々と前に進むことができた。子ども心に、自分の世界が一気に広がったような気がした。

もう義足はいらない。

義足の練習はやめよう。

3歳の秋、母と私はそう決意した。

構成/園田菜々

次回は4月28日(日)に公開予定です。