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ロシア疑惑の「捜査報告書」がトランプ大統領の息の根を止める日

メディアが報じぬ「トランプの真実」①
日本の新聞やテレビが流す「国際報道」には、信じるに足るものがあまりにも少ない─。こう手厳しく指摘するジャーナリスト・立岩陽一郎さんが、少しずつ追い詰められていくトランプ大統領と米国社会の最新事情を、綿密なファクトチェックと手厚い取材をもとにレポートしていく連載の第1回。米朝首脳会談が決裂した理由から、必死で権力維持を図る大統領の本当の意図、そして米国の日本に対する目論見まで、私たちが知らされていない真実を明かします。

間違いだらけのトランプ報道

トランプ米大統領の「ロシア疑惑」。2016年の大統領選挙にロシアが介入し、トランプと共謀した──というこの巨大疑獄に関する一連の捜査報告書が公表された。

ロバート・モラー特別検察官がまとめた全448ページの報告書(その1割以上は黒塗りされているのだが)は、トランプとロシアの共謀を裏づけるのに十分な証拠は見つからなかったと述べ、その一方で、司法妨害が疑われるトランプの行為が10件あったとしている。

この公表を受けて、トランプ大統領はツイッターで「ゲーム・オーバー」と勝利宣言をした。とりあえず、彼が任期1期目の途中で職を離れる可能性は低くなったようではある。

ただし、捜査報告書が「証拠不十分」としたからといって、トランプの疑惑が問題にされなくなったわけではない。むしろ、報告書で記された、司法妨害が疑われる10件など、具体的な内容が明らかになったことで、今後、野党である民主党が多数を占める議会に厳しい追及の場が移ることになる。

どんなことが追及の取っかかりになりそうなのか。

 

報告書によると、2017年5月にモラー特別検察官がロシア疑惑の捜査を始めたことを知らされたトランプは、「俺はもう終わりだ」と汚い言葉を交えて語ったという。翌6月には「司法省にモラーを解任させろ」と命令。他にも、大統領選挙期間中の2016年に、トランプの長男や義理の息子がロシア人弁護士とトランプ・タワーで面会して、当時の民主党候補ヒラリー・クリントンに不利な情報を提供するという申し出を受けたりしている。「大統領を無罪と認めるわけではない」とも報告書には書かれている。

民主党は、捜査報告書を作成したモラー特別検察官に議会で証言するようさっそく要請した。

メディアもすでに動き始めている。トランプ大統領の追及報道で2017年の全米雑誌大賞を受賞したネットメディア「マザー・ジョーンズ」は、新たな有力情報を得たようで、これからが本番とばかりにさらに取材班を拡充するという。

他の主要メディアも疑惑追及の取材班を縮小させているわけではない。米国のメディアはトランプの疑惑の報道に一段と注力するだろう。

私たちが注意しなければならないのは、日本での報道だ。トランプが大統領を辞任するような状況がひとまず薄れたとなれば、彼に関する一連の疑惑は、もう日本のメディアではあまり取り上げられなくなる。モラー特別検察官の捜査報告書の公表については、新聞各紙の扱いも大きくなかった。「令和最初の国賓となるトランプ大統領」などと持ち上げるときは、新聞もテレビもにぎやかに太鼓を叩くのだが……。

そもそも日本のメディアの「国際報道」なるものは、世界最高の権力者に関わる不正疑惑のような、重大な社会問題に関心が乏しい。そこへトランプ辞任の可能性が低くなったとすれば、おそらく今後、彼を過去の米国大統領と同じ視点で描くだろう。

つまり、常に世界の情勢に気を配り、敵対する勢力と同盟国との力関係を計算して政策を考え、そして行動するリーダー──というのが、日本のメディアが報じるトランプ像になる。

さらに、おそらく日本の「国際報道」は、トランプが北朝鮮に対して非核化のためにあらゆる手段を検討していくかのように伝えるだろう。実際、昨年(2018年)6月の第1回米朝首脳会談の際、日本のマスメディアはそういう姿勢でトランプについて報じた。

しかし、その内容は事実と言えるものではなかった。いかに不正確でバイアスがかかった報道があふれたか、私は当時、現代ビジネスへの寄稿で指摘している。

トランプは、世界中のあらゆる国に対して多大な影響力を持つ人物である。だから米国だろうが日本だろうが、どの国のメディアにも、ロシア疑惑のみならずトランプが抱えるさまざまな問題をきちんと追っていく必要がある。たとえば、彼のビジネスと大統領の職務との「利益相反」も、厳しく検証すべき重大な問題と言える。

そういった作業をした上でトランプ大統領の政策を見なければ、メディアがどんな立派な分析をしたところで、たちまち根本から崩れてしまう。

本連載では、その根本の部分──日本のメディアが報じないトランプの諸問題──を今後も注視し、読者に伝えていく。おそらく孤独な取り組みになるだろう。

しかし、誰かがやらねばならない。米国大統領が日本社会に及ぼす影響は、おそらく多くの読者が考えているよりもはるかに大きいからだ。

まずは、今年(2019年)2月末、第2回米朝首脳会談が終わった頃まで時計の針を戻そう。

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