真っ青になった東京地検
筆者がイチロー選手の契約内容をチェックしたのち、東京地検関係者に再取材すると、その関係者はこう言って認めた。
「『私の報酬もイチロー選手と同じく、確定していない、業績に応じたインセンティブ報酬であったから、未記載で構わない』という論理構成をゴーン側は模索しているとみられる。悩ましいところだ」
別の検察関係者も言う。
「報酬は確定してから、要するにもらってから公表するのが当たり前で、そんなケースは世界にざらにある。イチロー選手の場合だってそうだし、いま話題になっている前田(健太)選手もそうだ、とゴーンは主張しようとしている。
こうなると、実はけっこう苦しい。今年2月、日産がゴーンの後払い報酬として92億円を計上した時、ゴーンが『これで本当にもらえることになった』と苦笑気味に漏らした際、東京地検は『ヤバい』と青くなって、訴因の変更すら検討し始めた」
日本の誉である国民的野球選手を引き合いに、ゴーン被告が筋の通った無罪答弁を予定しているとすれば、社会的なインパクトも大きい。
それゆえ、東京地検は訴因変更、すなわち別の罪状での起訴を模索し始めたというのである。
それにしても、さすがは傑出した経営者たるゴーン被告というべきか、あるいは「無罪請負人」弘中弁護士の智恵なのか、ともあれ東京地検は窮地に追い込まれたわけである――。
以上が、4度目の逮捕直前の状況であった。そしてその直後、東京地検は上層部たる最高検に泣きついた。
「もう一度、別の容疑で逮捕しないと、ゴーンは無罪になる」
そう言って、最高検を説得したというのだ。もっとも、その裏では、こうも息巻いていた。
「一度じゃない。こうなったら、何度でもやってやる」
今回の逮捕にあたり、東京地検はゴーン被告の日記や電話などのほか、公判対策用に作成された資料まで押収したというが、ほかの罪状への対応にも念を入れるつもりだとされる。
役員報酬以外の罪状である会社法違反について、「会社に損害は与えていない」「社内の承認は得ている」などとゴーン被告が主張していることも侮れない。今回の特別背任の容疑についても、当然反撃を繰り出してくるとの見方もある。
とすると、追い詰められた東京地検は……場合によっては、さらなる逮捕もありうるかもしれない。
両者の攻防は続く。