透析中止問題で明らかになった「コンフリクトマネジメント」の重要性

患者の心に潜む「インタレスト」とは
永井 弥生 プロフィール

また、インタレストには、今ここで解決してほしいものと、対話し時間を経て気づく深いものがある。すぐにこうしてほしいと思う要望は浅いインタレストである。今どうしたいのかを考えつつも、次第にほかの考えも生じ、自分の人生はと考え、深いインタレストに及ぶことになる。

時間の経過でもインタレストは変化する。自分でも認識していない想いに気づくためには、多くの言葉を表出し、十分な対話や考える時間が必要なのである。

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身体状況の変化に伴う気持ちの変化も認識しておかないといけない。医療者を信頼していた、十分に説明は理解していた、と思っていてもコンフリクトの感情は生じる。例えば医療行為に伴う合併症が生じれば、少なからずは受けなくてよかった治療を受けることになる。身体の辛さは心の辛さを呼び起こし、なぜこんなことに、という気持ちになるのである。

医療のリスクマネジメントとは、予測されるリスクに対して可能な対応をしておくことである。コンフリクトマネジメントを理解すれば、想定しうるリスクがある。

死に直結する重大問題の決定に際して「インタレスト」の把握は十分であったのか、時間の経過による変化への対応は意識されていたのかであろうか、と疑問を持つ。

患者自身も決める姿勢を

医療者としては、通常、まずは標準的な方針を説明する。最善と思うことを推奨する。選択肢も示す。しかし、「伝えたいこと」と「伝わったこと」すなわち言葉の解釈には、齟齬、認識のずれが生じうる。

医療者は、適切な医療のプロセスをとった上で、患者の不安を軽減し自身で考えていただけるような対応をする必要がある。そのためには、対応がポジションのやりとりに終わらないように、コンフリクトというものを知っておくことが重要なのである。

医療者が負う責務は大きい。コンフリクト、インタレストというものを知った対応の上で、プロセスを尽くしたのであれば、それを記録し、毅然とすればよい。それは最前線の医療者のみが背負うものではなく、病院、組織として知ってほしいことである。

しかし、治療の時期を逸すれば、治療が困難になり、リスクも高くなる。そういったリスクまで医療者だけが背負っていては、医療が成り立たなくなる。状態が悪くなったからやっぱり治療してほしいと言われても、救命できないリスクも高くなるのである。

リスクは患者も納得して背負わなければならない。医療者だけで決めることではないのである。

「はっきり意思を示したのだから」という医療者、「やっぱり……」という患者。
ポジションのやりとりに終始するとコンフリクトとなり、納得のいかない結末となる。

自分自身のことである。一人ひとりが本当の想いはどうなのか、日常から自分を客観的にみつめて考えてほしい。医療者には遠慮なく質問をぶつけ気持ちを伝え、一緒に決めてほしい。人生における本当の深い想いや価値観、変わらない自分が生きる軸を持ってほしい。

病気も含めた人生のトラブル、いつやってくるかわからない。

医療者は、医学的な判断を踏まえつつ、変化する患者の気持ちに寄り添い、しかしながら、時に無理な要求には毅然と対応することも伝えなければならないのである。

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