
撮影されたのは、おとめ座にある楕円銀河「M87」の中心にある巨大ブラックホールです。
M87までの距離は約5500万光年、「穴」の見かけの大きさは角度にして1億分の1度。これは、月面に置いたゴルフボールを地上から見たときの大きさに相当します。
地球規模の巨大電波望遠鏡ネットワークによって初めて見えたブラックホールの姿からなにがわかるのか。
今回発表を行った、EHTプロジェクトの日本チームの代表者である、本間希樹・国立天文台教授の著書『巨大ブラックホールの謎』から、抜粋して解説をご紹介します。
ブラックホールとは
ブラックホールはとても奇妙な天体です。その性質を一言でいうと、「重力が強くて光さえ脱出できない天体」ということになります。
光はこの宇宙で最も大きな速度を持っていて、その速さは秒速30万kmです。これは1秒間に地球を7回転半するくらいの速さです。
このとてつもなく速い光でさえブラックホールから脱出できないわけですから、それより速度の遅い通常の物質も脱出することはできません。そして、光さえ出てこないので、見た目も真っ黒な天体になるというわけです。
つまり、ブラックホール(Black Hole)は、その名の通り「黒い穴」なのです。
このようなブラックホールはどのようにしたら作ることができるでしょうか?
じつはここには星の進化が関係しています。非常に重い質量の星(太陽の30倍以上の星)が燃え尽きた場合は、中心部でブラックホールが作られると考えられています。
このようなプロセスによって作られるブラックホールは太陽の数倍から10倍程度という通常の恒星程度の重さを持っているので、「恒星質量ブラックホール」と呼ばれます。
“巨大”ブラックホールとは
一方、巨大ブラックホールは、太陽よりもはるかに大きな質量を持ちます。具体的には太陽の100万倍から、最大で100億倍という値になります。
その存在する場所も、またその個数もたいへん特徴的です。
「恒星質量ブラックホール」は、星が一生を終える際にできる天体ですので、星がある場所(たとえば銀河の円盤など)にはどこでも存在する可能性があります。
それに対して、巨大ブラックホールは、基本的にどの銀河にも中心に一つだけです。そして、私たちの天の川銀河も含めた多くの銀河で普遍的に存在すると考えられています。
どの銀河にも普遍的に巨大ブラックホールが存在することがわかってくると、まず出てくる大きな疑問は「このような巨大ブラックホールがどのようにしてできたか?」ということです。
この当たり前の疑問は、じつはまだはっきりとした答えが得られておらず、現代天文学の大きな謎として残されています。