小笠原ショック!

それは、1995年の夏のこと。
小説の取材のために、私は東京から遠く離れた南の島、小笠原諸島に行くことになった。

小笠原諸島は、大島や三宅島などの伊豆諸島と同じように一応東京都に属しているが、伊豆諸島よりはるかに南。東京港からなんと1000キロも離れている。2011年には「世界遺産」にも登録された程の美しい海と自然に囲まれ、大陸と隔絶されて独自の生態系が進化していることから「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる島。

海と離島を舞台にした小説が書きたいと漠然と考えた時、小笠原を取材先に選んだのは軽い気持ちだった。島に飛行場がなく、船に25時間以上乗らなければ行けないというレア感と、野生のイルカと一緒に泳げるという話に心惹かれたのだ。

でも……。
な、な、なんじゃこりゃ~~~~っっ!?

25時間の長旅を経て、定期貨客船「おがさわら丸」が小笠原の父島に近付いた時、私は、その海の色にド肝を抜かれた。

東京の竹芝桟橋で通称「おが丸」に乗り込んだ時、海はドブの水のようなカーキー色をしていたのに、いつのまにやら、透き通った深い藍色に変わっているのだ。船が浅瀬に進むにつれて、海の色は藍色から目も覚めるように鮮やかなターコイズブルーに変わった。

え? まるでおフロの入浴剤みたいな色だけど、これって本物!?

小笠原諸島の南島 Photo by iStock

子供の頃から、海は大好きだった。
海の近くに住んでいたわけじゃないので、年に1度行けるか行けないかくらいなものだったが、海へのあこがれはいつも心の中にあった。
『宝島』という小説にかぶれていた小学校の頃には「船乗りになりたい!」と思っていたこともあるし、「南の島でイルカと一緒に暮らしたい」と夢見ていたこともある。

だけど、そんなにも美しい海を肉眼で見たのは、30年以上生きてきて初めてだったのだ。
楽園のような海と、まぶしい太陽。

観光の中心である小笠原諸島一の島、父島でも、当時人口は2000人足らず。冬でも気温が20度以上なので、島の人たちの服装は基本Tシャツ短パン。一応東京都であるにもかかわらず、村役場の人の格好もアロハシャツだ。

ここは本当に日本なのか!?

小笠原の雄大な自然と、ゆったりと開放的な島の空気に、私は強烈なカルチャーショックを受けてしまった。

念願のドルフィンスイムも体験した。

「イルカと泳ぐと泣ける」と噂には聞いていたが、これが本当に、心の底から癒されて号泣モノなのだ。毎日海で泳ぎ、シュノーケリングで魚と戯れ、水平線に沈む夕陽や満天の星を眺める。そんな小笠原での数日を過ごすうちに、Tシャツに短パンですっかり日焼けした私の中で、今までの価値観がガラガラと崩れ始めた