漫画家で小説家の折原みとさんは、湘南の家でこりきというゴールデンリトリバーと一緒に住んでいる。「飲食店経営に手を出してズバリ『地獄にはまった』漫画家の話」にあるとおり、折原さんと犬との二人三脚は有名だ。しかし、実は犬を飼うようになったのは、30歳をすぎてから。

その詳細はエッセイ『おひとりさま、犬をかう』に詳しい。仕事とはなにか、豊かさとは何か、そしてペットと暮らすとは何かについて多くを教えてくれる一冊だ。その本から、数回限定公開にて、デジタルメディアとして初めて抜粋掲載する。19歳で上京し、21歳でデビューして人気漫画家となった折原みとさんは、犬を飼う前に、大きな決意のもとに生活を一変させた。それはなぜか――。

10年間仕事ひと筋

大人になったら、絶対に犬を飼う!!」と心に誓ったのは小学校3年生の頃。

ようやくその夢を実現させたのは、それから20数年後、30を過ぎてからのこと。
犬を飼える生活と環境、ひとつの命を守り育てるだけの自信と責任感を持てるまでには、それだけの年月が必要だったのだ。

19歳の時に映画監督めざして上京した私だが、エキストラのバイトをするうちに映画業界の下積みの長さと仕事のハードさを知り、あっさり子供の頃から好きだった漫画の道に方向転換。

同人誌を見てくださった編集さんの紹介や、出版社への持ち込みなどがキッカケで、21歳の時に少女漫画家としてデビューした。

実力よりも、大事なのは運と勢い!?
当時、とにかくフットワークが軽くて仕事が早かった私は、いくつかの雑誌で同時にお仕事をいただき、デビュー早々連載もスタート。その上、漫画家デビューの翌年には児童小説で小説家デビュー。半年後に少女小説も書き始め、漫画と小説のカケモチでいきなり大忙しになってしまった。

21歳でデビューしてからの10年程は、呆れるくらいに仕事一筋!!
今からはとても考えられないが、月に漫画の連載を2~3本抱え、その間に連載小説や書き下ろしの小説を執筆するというハードスケジュール。

完徹はめったにしなかったが、睡眠時間2~3時間なんてことがあたりまえ。ひとつの仕事が終わっても、次の仕事までの間は半日くらいしかやすめないことがザラだったので、遊びに行く暇もない。たまに友人と飲みに行くか、近所の公園で気分転換の散歩。年に1~2回、取材をかねた旅行をするのがせいいっぱいの息抜きだった。

今、あの頃のことを思い出すと、我ながらよくもあんなに脇目もふらず、仕事ばかりしていたな…と感心してしまう。締め切りに追われてたまに逃げ出したくなることはあっても、仕事は好きだし大きなやりがいも感じていたので、忙しいのは苦ではなかった。

デビューしたばかりのころ 写真提供/折原みと

30歳になって「このままでいいのか」

世の中に漫画家志望、小説家志望の方がたくさんいる中で、お仕事をさせていただけるのはありがたいことだ。

けれど、描いて描いて描きまくり、夢中で突っ走っていた20代が過ぎた頃、私の心に、少しずつ疑問が生まれてきたのだ。
「このままでいいの?」……と。

モノを描くというのは、自分の経験や知識、気持ちや感動を元にして作品を生み出す作業だ。私も、それまで自分のささやかな人生経験や恋愛経験、その時に感じた気持ちを膨らませて漫画や小説を描いてきた。

でも、漫画家デビューしてからは、日々締め切りに追われる仕事漬けの毎日。

仕事の上ではいろいろ刺激的な経験もさせてもらっていたけど、私生活では、ほとんど新しい経験も知識も吸収していなかった。このまま自分の中のモノを一方的に放出して行くばかりでは、いずれは描きたいことも、描きたい気持ちもなくなってしまうんじゃないだろうか? 

ちょうど、人生にそういう時期がきていたのかもしれない。30を超えてふと立ち止まり、何かを変えたいと思い始めていた頃、私には、それまでの生活も価値観もぶっ飛んでしまうような、大きな転機が訪れたのである。