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養育費が払われずに家賃滞納…中高生の子どもを抱えた45歳母の苦悩

シングルマザーを取り巻く貧困の深い闇

「日本の子どもの『7人に1人が貧困』だと知っていますか」という渡辺由美子さんのこの記事は、多くの人の衝撃を呼んだ。そこで渡辺さんが言っていたのは「貧困対策は福祉より投資」としてやらなくてはならないという主張だ。

家賃滞納という貧困』という書籍の著者である司法書士の太田垣章子さんは、自身もシングルマザーで貧困に苦しんだ経験があり、多くの家賃滞納に陥ったシングルマザーにも会ってきた。改めて本書より養育費の未払いによって家賃を滞納せざるを得なくなった具体例と現状をお伝えする。

妻に家賃滞納の事実を伝えずに失踪

子どもがいる夫婦が離婚する場合、できるだけ子どもの環境を変えたくないと思うのは親心として当然だと思います。賃借人である父親が家を出て、母親と子どもが引き続きその家で暮らすことを選択する人は珍しくありません。その場合、家賃は養育費代わりに父親(賃借人)が払っていくという約束をすることも多いでしょう。
 
ところが、ある時から家賃が支払われなくなり、残された母親と子どもを混乱に陥れるケースを私は多数見てきました。養育費を払うという約束が果たされなくなるのと同じ現象です。
 
家主から明け渡しの相談を受けたとき、滞納はすでに 10カ月に及び、金額は100万円にまで膨れ上がっていました。今まで打開策を講じなかった理由を家主に尋ねると、賃借人である井上圭吾さん(48)にのらりくらりとはぐらかされていたため、なかなか訴訟手続きに踏み出せなかったということでした。高校生と中学生のお子さんがいることも把握していたため、子どもにお金がかかる時期だと思うと、厳しく督促することもできなかったのだそうです。

事件を受託して最新の住民票を取得してみると、圭吾さんはすでに別の地に転居。世帯主は祥子さん(45)に変更されています。離婚したのかもしれない。そのとき初めて知りました。同時に祥子さんが滞納の事実を知っているのかと不安になりました。家主の督促は、いつも圭吾さんの携帯への電話だったと聞いていたからです。現状を把握するためにも、祥子さんに会いに行ってみました。
 
祥子さんは仕事で不在だったので、手紙を投函しておいたらすぐに事務所に連絡がありました。予感は的中。祥子さんは、滞納の事実をまったく知らなかったようです。

養育費代わりに家賃を払う約束だった

「私たち、もうここに住めないんですか? まったく知りませんでした。私たちは、どうなるのですか?」
 
祥子さんは、離婚に際し高校生の長男と中学生の次男を引き取りました。親が離婚しても子どもたちの生活を変えることは避けたかったので、姓も変えず、家も変えず、養育費代わりに、圭吾さんに家賃を払ってもらうことにしました。それまで祥子さんは専業主婦の経験しかありませんでしたが、住むところさえあれば、生活費はなんとか稼げるのではないかと考えたのです。

しかし蓋をあけると圭吾さんからの支払いは一切なく、連絡も取れなくなっていました。しかも公正証書を交わしておらず、書面で支払いの約束もなされていませんでした。圭吾さんの両親はすでに他界し、兄弟もいません。
 
祥子さんの狼狽ぶりから察するに、本当に今まで滞納のことを知らなかったのは間違いなさそうです。住民票から追ってみると、圭吾さんは住所を神奈川から東京に移していました。その住所に書面を送っても、あて所不明で戻ってきます。現地に行ってみると、別の名前の表札が上がっていました。

その部屋の住民の方は最近引越してきたようで、圭吾さんの住民登録が残ったままなので迷惑しているとのことでした。おそらく圭吾さんは、住民票を残したまま、どこかに転居していったのでしょう。こうなると圭吾さんの居所を探し当てる ことは、至難の業です。
 
居所も分からない、携帯も繋がらない、身内もいないとなれば、今後部屋の家賃が圭吾さんから支払われることはないでしょう。祥子さんに経済力があれば、滞納額をどうするかは別としても、このまま住み続けていただく選択肢もあります。しかしながら祥子さんの話からは、家賃の負担がないおかげで、かろうじて生活費を確保している様子が窺えました。

そこに家賃の負担がのしかかれば、おそらく家計は早々に破綻するでしょう。お子さんのためにも 住みなれた部屋を離れたくないという気持ちはわかりますが、やはり転居してもらうしかないのではと思われました。

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