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もしがん患者になっても「仕事を続けた」ほうがいい3つの理由

おカネのためだけじゃない
黒田 尚子 プロフィール

それも、恭子さんの体調を心配してというよりは、業務に支障を来すのではないか、がんに罹患したことで仕事の効率が悪化するのではないか、と言わんばかりの口ぶりだったという。

恭子さんの勤務先は、社長とその妻が中心となって切り盛りしている従業員10名未満の小さな設計事務所である。たしかに、恭子さんが入院や通院で仕事ができなくなると大変に違いない。しかし、がんに罹患した途端、恭子さんの仕事の能力やスキルがまったくなくなるかのような社長の態度に恭子さんは、驚きとともに、強い憤りを覚えた。

結局、同席していた社長夫人が、すぐにでも会社を辞めさせそうな社長をなだめてくれたのだが、その際の社長夫人の言葉が今でも頭を離れない。

「可哀そうだから、このまま雇ってあげるけど、がんになったんだから、お給料は半分でいいわよね」

 

冗談交じりの口調だったとはいえ、本音だったのだろう。恭子さんは、こんなことまで言われて、この職場で働く意味があるのかと真剣に考えた。しかし、恭子さんは独身で一人暮らし。両親は健在だが、遠方に住んでおり、心配を掛けたくないので、乳がんと診断されたことを知らせるつもりはない。

中小企業といえども、正社員という身分は、がんに罹患した今の恭子さんにとって、歯を食いしばっても守らなければならないものに思えた。

〔photo〕iStock

病気になっても患者が働くべき理由とは?

それでは、恭子さんの事例を踏まえた上で、がんなどの病気になっても働いた方が良いのはなぜか?

同じくがん患者でもある筆者は、「収入」「健康維持」「生きがい」という3つ理由があると考えている。

理由その1「収入のため」

生きていくためには、お金がかかる。まとまった預貯金や資産等がなければ、何らかの収入を得らなければならない。

がんになっても、家賃や毎月の生活費はかかるし、基本的に、奨学金やローンの返済等がなくなるわけではない。さらにその上、医療費もかかるのだ。

とりわけ、恭子さんのように現役世代で発症した場合、収入のために働くというのは、最大の理由となるだろう。

ただし、現実はそう甘くはない。

ライフネット生命が実施したがん経験者572名へのアンケート調査(2017年8月)によると、がん罹患前後の収入の変化について、罹患前の年収415万円に対して、罹患後には年収332万円と、約2割減少している。

職業別にみると、とりわけ収入減少率が高かったのは、派遣社員(39%)やパート・アルバイト(29%)など。収入減少率の平均は約2割だが、収入が半分以下になった人が約半数、収入ゼロが約2割も占めている点は留意すべきだろう。