2019.04.09
# アメリカ

2020年米大統領選の候補も危惧…世界を覆う「加速主義」的な現実

それは希望か、絶望か
木澤 佐登志 プロフィール

だが、スルニチェクらはオートメーション化を「危機」ではなく変革のための「好機」と捉えている。ここがヤンと大きく異なるポイントだ。つまり、ネオリベラル資本主義とは異なるシステムに脱出するためには、テクノロジーの発展とオートメーション化がぜひとも必要であるという考え方だ。

オートメーション化は忌避されるべきものではなく、むしろ積極的に推進されるべきものなのだ。スルニチェクらは、一貫して左派の立場から、資本主義に代わるオルタナティブな未来を構想する。

スルニチェクらは、「ポスト資本主義」を構築するための目標として以下の四つを掲げている。

1 製造の全オートメーション化
2 労働日数の削減
3 ベーシックインカムの支給
4 労働倫理の縮減

彼らの思い描く未来のビジョンは、ヤンとは正反対にどこまでも楽観的、さらに言えばユートピア的だ。労働のオートメーション化によって、人々は無益で退屈な労働から解放され、もっと生産的な目標に打ち込むことができるようになる。生活はベーシックインカムによって保障され、失業の不安からも解放されるだろう……云々。

スルニチェクらがこうしたユートピア的な未来社会のビジョンを大胆に打ち出す背景には何があるのだろうか。彼らは『未来を発明する』の中で、未来に対する長期持続型のグランドビジョンを打ち出すことができないでいる昨今の左翼に対する苛立ちをあらわにしている。

 

彼らは、近年のオキュパイ運動などに象徴される左翼の傾向性を「フォーク・ポリティクス(素朴政治)」と呼んで批判する。フォーク・ポリティクスの特徴としては、直接行動主義やローカル主義などが挙げられる。それらは一時的な効果しかなく、空間的にも限定されている。たとえば、街頭デモのようなローカルな直接行動がこのパターンに当てはまる。

スルニチェクが批判するオキュパイ運動〔PHOTO〕Gettyimages

スルニチェクらは、これらフォーク・ポリティクスだけでは不十分であるとし、それに対してグローバルな長期的目標を掲げた、組織的かつ複合的な戦略こそが重要だと主張する。

そして、そのためにこそテクノロジーの発展が必要不可欠なのだ。テクノロジーは、現在のところネオリベラル資本主義のもとで、生産性の極大化のために使役されている。左派は、このテクノロジーを来るべき未来社会を構築するために「転用」させなければならない。

それは資本主義によって制限されてきたテクノロジーの未知の可能性を解放することでもあるのだ、と彼らは主張する。

加速主義とは何か?

こういった、テクノロジーの加速度的発展こそが資本主義の彼方にアクセスするための方法であるとするスルニチェクらの思想は、一般に「加速主義」という考え方と関連付けられている。

スルニチェクらは2013年にも「加速派政治宣言」と題した文章をオンライン上で発表し、ネオリベラル資本主義に代わるオルタナティブなビジョンの模索、そしてそのためにこそ「加速」のモーターとしてのテクノロジーの促進と新たな社会技術的プラットフォームの構築が必要不可欠である、と主張していた。

スルニチェクらの議論は、加速主義の中でもとりわけ左派加速主義という括りに入れられることが多い。ここで、全体としての加速主義についてもう少し詳しく見ていこう。

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