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2020年米大統領選の候補も危惧…世界を覆う「加速主義」的な現実

それは希望か、絶望か

起業家出身、大統領候補の危惧

2020年にひかえたアメリカ大統領選挙において、民主党から出馬を表明した候補者のひとりにアンドリュー・ヤンという人物がいる。彼は台湾出身の移民二世。政治の経験はないが、一方でシリコンバレーでドットコム企業を立ち上げた過去を持つなど、起業家としての側面を持っている。

そんな大統領候補としてはいささか異彩を放つヤンが掲げる政策案の目玉は、なんといってもユニバーサル・ベーシックインカム(最低所得保障制度)の導入だろう。

アンドリュー・ヤン〔PHOTO〕iStock

ベーシックインカムとは、すべての国民に対して無条件に一定の金額を支給する制度。ヤンは、アメリカのすべての成人に一ヶ月あたり1000ドル(約11万円)を保障する、という大胆な政策案を打ち出している。

とはいえ、ベーシックインカム構想は何も物珍しい考え方ではなく、経済学者ミルトン・フリードマンの「負の所得税」構想など、類似の考え方は経済学の分野でも真剣に議論されてきた歴史がある。2016年にはスイスでベーシックインカム導入を問う国民投票が行われている。結果は反対票に傾き否決となったが、ベーシックインカムの認知度は日増しに上昇している傾向にある。

ヤンのベーシックインカム構想の背景には、進行しつつある労働のオートメーション化(自動化)という問題意識がある。テクノロジーやAI(人工知能)の発展に伴うオートメーション化は、小売店の従業員、コールセンターのオペレーター、ファストフードの店員、トラックドライバーにまで及ぼうとしている、とヤンは主張する

たとえば、全米には現在約350万人のトラックドライバーがいる。そう遠くない未来に実現化されるであろう自動運転の技術は、必然的に彼らから職を奪う。その際、平均年齢49歳で学歴も高くない彼らを再雇用する企業がどれだけあるのか。ヤンは、これら進行中のオートメーション化という危機に対して、「自由の分配」という形でベーシックインカム制度を提案しているのだ。

 

現在のところ、ヤンの知名度はアメリカ本国でも決して高いとは言えない。しかしインターネットを中心に、ジェネレーションZ(1990年代後半から2010年の間に生まれた世代)の間で支持を集めている。

彼らヤン支持者はヤン・ギャング(YangGang)を自称し、レディットや4Chanなどでヤンのメッセージを広めるためのミームを生産している。若い世代は、ヤンの主張の中に自分たちが抱いている未来への危機感や不安感の源泉のひとつを見て取ったのだろうか。

以下では、ヤン(やヤン・ギャング)、そして一部の左派が共有しているように見える社会観を紹介しよう。彼らは資本主義のさらなる成長・拡大・高度化=「加速」を前提とし、それを肯定するにせよ否定するにせよ、各々が加速への対応策を模索している。なかには、「加速主義」と呼ばれる独特の思考に魅了される人々が現れていることにも注意を向けたい。

オートメーション化は好機だ!

ところで、ヤンと同じく、オートメーション化が雇用を奪うという未来予測のもと、ベーシックインカムの導入を提唱している人物にニック・スルニチェクというカナダ出身の哲学者がいる。

彼が2015年に出版したアレックス・ウィリアムズとの共著『未来を発明する:ポスト資本主義と労働なき世界』(未邦訳)では、まさしくヤンと同様の問題意識が語られている。