日本の自動車メーカーに、自動車産業に参入してきたグーグルに脅威を感じている人は多い。しかし、百度(バイドゥ)という中国ネット検索最大手の企業を意識している人などほとんどいないのではないか。
世界の自動運転覇権の構造はこの1年ほどでがらりと変わった。バイドゥが蓄えている実力は、グーグルのそれをもしのぐほどに飛躍したからだ。
今年3月、筆者は北京滞在中にそれを実感することとなった。
北京にある、バイドゥが運営を受託している公園を訪れると2台の青い周遊バスが走っていた。いくら目を凝らしても運転席があるはずのフロントガラスの向こう側に運転手は見当たらない。理由はバスに乗ってみればすぐにわかる。そのバスには運転席もなければ、アクセル、ブレーキのペダルもない。それどころかハンドルすらも存在しない。完全自動運転のバスだからだ。
バスには一応、監視をするための職員が乗り込んでいるが、その職員がこのバスを制御することはない。あくまで安全運行を担保しているのはバスの車内外に搭載されたセンサーとAIなのだ。
バスに乗り、道なりに正確に進行していくさまを興味深く眺めていた筆者には、前方から中国人の老夫婦が歩いてくるのが見えた。筆者はぶつからないか少し不安を覚えたが、バスは老夫婦とすれ違う直前にほんの少しだけ減速をはじめ難なく通り過ぎてみせた。