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イギリス現地取材で見えてきた、ブレグジット大混迷の「元凶」

なぜ、こうなってしまったのか…

ブレグジットの一大背景にあるもの

イギリスが欧州連合(EU)を離脱する予定だった3月29日の前後2週間ほど、ロンドンに滞在した。政府関係者ら各方面の人たちに取材をする中で、改めて「ブレグジット」が内包する問題の広がりと奥行の深さを知った。

3月23日の土曜日。ロンドン市内では2度目の国民投票を求める大規模なデモ行進が数時間に渡って続いた。混迷を極める政治にたまりかね、「国民に委ねろ(Put it to the people)」と銘打ったデモには100万人超(主催者発表)が参加。史上最大規模のデモとなった。

しかし、デモ参加者に悲壮感はない。バンドの演奏あり、思い思いのメッセージを込めたプラカードやコスプレに趣向を凝らした人々には笑顔があり、まるでピクニック感覚である。小さな子供を連れた家族連れや、若者の姿が多かったのが印象的だった。

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後日取材したイギリス政治の専門家はこう言った。

「(国民投票後の)この2年半は、子どもたちや若者らが政治参加の大切さ、民主主義について考える絶好の機会となりました」

歴史的に国民が政治的権利を勝ち取ってきたイギリスでは、こうして民主主義は鍛えられ、世代を越えて守られていくものなのかと思った。それはイギリス社会が身に着けたDNAなのかもしれない。

 

このデモで筆者が最も考えさせられたのは、「もし考えを変えられないと言うなら、それは民主主義ではない」というメッセージだ。言うまでもなく、「国民投票の結果を尊重しないなら、民主主義の終わりだ」という離脱派の主張への反論である。

うーん、と唸ってしまう。なんとも悩ましい問題ではないか。筆者は、民主主義のプロセスとして国民投票の結果は履行されなければならないと考えてきたが、その考えがぐらついてしまった。

その一方で忘れてはならないことがある。

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国民投票で離脱という結果をもたらしたのは、こうしたリベラルで開放的なデモには決して参加することのないだろう「サイレント・マジョリティ(声なき多数派)」の現状に対する不満であったということである。

社会の潮流、グローバリゼーションの恩恵から「取り残された人々(left behind)」。ブレグジットの一大背景にあるのは、処方箋なきままに深刻化する一方の「格差社会」だということだ。

1997年に特派員としてロンドンに赴任して以来、イギリス社会を見てきたが、今回の訪問ではロンドンの街中で見かけるホームレスの多さに驚かされた。

英紙ガーディアン(2018年10月31日付)によると、昨年7月から9月の間にロンドンで確認されたホームレスは3000人を超え、記録的な数字だという。また、この記事が出た時点から過去1年間で440人を超えるホームレスが路上などで死亡したという。

ホームレスの増加が、格差拡大の一面を物語っていることは明らかだろう。

ホームレスの増加と、ブレグジットでがんじがらめになり、エネルギーを消耗し続けているイギリス政治の現状は果たして無関係なのだろうか。

ブレグジット悲観論に慣れた耳には意外に聞こえるかもしれないが、ロンドンの繁華街にはガラス張りの瀟洒なレストランやカフェが雨後の竹の子のように増殖し、かつて見たことがないほど多くの観光客や人で溢れかえっていた。

そんな賑わいの中で物乞いをするホームレスが増えていることは、イギリス社会の光と影のコントラストがますます鮮明になっていることを示すものだろう。

ブレグジット問題をめぐる政治的混迷の副作用、後遺症は将来、様々な面でイギリス社会を悩ますことになるかもしれない。