日本の上空を覆う米軍の巨大な壁…「横田空域問題」を知っていますか

世界的にみても異例です

羽田や成田を使用する民間機は、常に急上昇や迂回を強いられている。日本の上空に、「巨大な空の壁」があるためだ。いわゆる「横田空域問題」と呼ばれるこの不可思議な状況について、『横田空域』を刊行したジャーナリストの吉田敏浩氏に聞いた。(取材・文/角川新書編集部)

だれがいつ、決めたのか

――1月下旬に「2020年の東京オリンピックに向けて、羽田空港の発着便を増やすため、アメリカ軍が航空管制を行う空域内に新ルートが設定された」というニュースが流れてきました。聞き流してしまいそうな話ですが、日本の航空機が日本の空を飛ぶのにアメリカ軍の許可が必要だ、ということを言っています。いわゆる「横田空域問題」と呼ばれるこの問題について、解説をお願いできますでしょうか。

「東京を含む1都9県にまたがる空域は『横田空域』といい、広大な地域の上空を覆っています。高度約2450~7000メートルまで6段階に設定され、日本列島の中央を遮る巨大な空の壁になっています。7000メートルというとヒマラヤ山脈なみの高さです。この空域の航空管制は、横田基地のアメリカ軍が握っています。

これは世界的に見ても異例ですし、独立国としてあるまじき状態だと思います。いわば、首都圏の空が占領状態におかれている。なぜこのような異常なことがまかり通っているのかを今回の書籍では探りました。

航空管制に従って計器飛行する民間機は、横田空域を自由に飛べません。空域内に入る場合は事前に飛行計画を提出して一便一便、アメリカ軍に許可を得なくてはなりません。しかし、許可されるかどうかはわかりませんから、定期便はこの手続きはとれません。必然的に横田空域を避けて通らざるを得ない。悪天候などの際には入域が許可されることもありますが、あくまで緊急のときです。

民間機はこの巨大な空の壁を避けるため、常に急上昇して横田空域を飛び越えたり、迂回したりするなど、大きな制約を強いられています。

たとえば羽田空港から福岡など西日本方面に向かうルートですが、離陸後、まず東京湾の上を急旋回、急上昇して高度を十分に上げてから、横田空域の上を飛び越えてゆかなければなりません。

今度、羽田から飛行機に乗る機会があったときに、その飛行経路を見ていただけたらと思います。

【PHOTO】gettyimages

毎回、急上昇や迂回を行う不自然さ、弊害については、航空関係者からも声が上がっています。航空安全推進連絡会議という団体がありまして、パイロットや客室乗務員、整備士、航空管制官などの複数の労働組合からなりますが、毎年、国土交通省に対し航空安全に関する要請をしています。そのなかで、『民間機の安全かつ効率的な運航を阻害している軍事空域の削減』を求め続けているのです。横田空域はここで指摘される『軍事空域』の最たるものです」

 

――そもそも「横田空域」というのはだれがいつ決めたのでしょうか。

「横田空域についての法的根拠は私が探した限りではありません。

本来、日本の航空管制は航空法に基づき国土交通省の航空管制官が行っています。ただ、例外的に自衛隊基地の飛行場とその周辺の航空管制は自衛隊に委任できます。しかし、アメリカ軍に委任できる規定は、航空法にはありません。

では、なぜ米軍が横田空域や岩国空域(山口・島根・広島・愛媛の四県にまたがる空域で、岩国基地の米軍が航空管制を握る)の航空管制を握っているのか。マスメディアでは日米地位協定に基づくと報じられたりします。しかし、地位協定の条文に両空域に関する規定はありません。

日本の空の主権が侵害されているというのは重大な問題ですよね。なにかしらの法的根拠がなければならないはずです。そこで私はこの2つの空域でアメリカ軍が航空管制をしている法的根拠を記した文書を、国土交通省に対し情報公開法に基づいて開示請求しました。

ところが2か月後、関連文書は『国の安全・外交に関する情報』に当たるとして全面不開示とされました。理由は、『日米双方の合意がない限り公表されないことが日米両政府間で合意されて』おり、公表したら『米国との信頼関係が損なわれるおそれがある』からだとありました。

日本は法治国家ですから、法的根拠の文書を当然開示すべきでしょう。そこで私は、先ほどの不開示の理由である『日米双方の合意がない限り公表されない』というその合意文書の開示請求を外務省にしてみました。

するとこれもまた、『日米双方の合意がない限り公表されないことが……』というまったく同じ理由で不開示とされました。そうまでして一体何を隠したいのでしょうか」