民事再生からV字復活を遂げた「究極のシニアビジネス」の手法

キーワードは「100%顧客目線」
長谷川 あや プロフィール

「情報共有」の徹底

並行して社内改革に着手する。キーワードとなったのは、「透明化」だ。

「前身の会社である、ユーリーグは、たくさんの面白いことを実現してきました。例えば、重曹を使った掃除を最初に提案したのは、ユーリーグなんですよ。目の付けどころが非常に優れていたのだと思います」

しかし、経営に関しては、「以前の経営者はカリスマでしたが、私はトップダウンだけでなく、もっと社員全員の力が活きる会社にしたいと思いました」と、宮澤さんは当時を振り返る。

「社内の売上や利益は、キーパーソンと経理担当者以外は知らない状況で、実売部数も知らされてはいませんでした。自分の関係した仕事に関わる数値を知ることは、モチベーションにつながります。私は、透明性はひとつの原理だと考えています」

宮澤さんは、就任早々に情報をガラス張りにした。情報だけではない。株式会社ハルメクの社長室は、ガラス張りでドアもない。物理的にも、ガラス張りなのだ。

こんな調子で、宮澤さんは会社を根本から改革していく。

「すべての部署の組織と役割を再構築するために、ヒアリングとミーティングを繰り返しました」

 

PDCA(Plan/計画→ Do/実行→ Check/評価→ Act/改善の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善すること)のための会議体も一から、作りなおした。また、それぞれの部署のミッションを明確にし、数値化。社員に自分に与えられた役割を認識させ、どの数字を良くすれば、評価されるのかをはっきりさせた。資金繰りは毎日チェックした。

「各部署が、その業務に適したKPI(key performance indicator)を設置することで、プロセスを明確にし、無駄はないか等のチェックを行い、仮にうまくいかなかったら次の打つ手を考えていくようにしました。これを実践しただけで、数字はどんどんよくなっていきました」

新規採用も積極的に行なった。宮澤さんはひとりのクビも切っていないが、民事再生の適用を申請した時点で、約120人いた社員は、宮澤さんの就任時にはすでに80名になっていた。

「つらい状態が続いていましたが、CFO(Chief Financial Officer)、マーケティングなど、さまざまな分野で、積極的に改革に必要な専門家を採用しました」

知られている名前を捨てた理由

3か月から半年後にかけては、商品開発の精査に重点的に取り組む。「品質の低い商品を数多く取り揃えても仕方がない」という考えのもと、品質を維持する仕組みは「数年かけて作り上げました」。

徹底した顧客志向を打ち出した。そこから発展した、「100%読者目線」は、今では、雑誌『ハルメク』、そして、ハルメクの関連会社全体を体現する、重要なテーマとなっている。

「顧客目線は、私が入社する前から理念に掲げられており、テコ入れする必要はないと思っていました。しかし、商品開発のミーティングで、顧客のセグメンテーションの話になったとき、担当者が想像で発言していることに気づいたんです。根拠がないのに、こうだと決めつけている。顧客取材も、言ってほしいことを言ってもらうことが目的になっている印象でした。本当の意味で、顧客を理解していないと感じました」

なお、雑誌名は、2016年に『いきいき』から『ハルメク』と名称変更している。ピーク時には約43万部の発行部数を誇り、認知度が高い『いきいき』の看板を下ろすことについては、社内で反対の声もあった。

「“いきいき”というのは、とてもいい言葉だと思います。そのため、世の中で多用されるようになっていました。とくに、自治体が、いきいき体操、いきいきセンターなど、後期高齢者のためのサービスや施設の名称に使うことが多いんです。それで健康雑誌をイメージされる方も多く、もっと若いシニアの方にも読んで欲しいという思いもあり、名称変更を決めました」

宮澤孝夫社長。『いきいき』に代わるネーミングは社員から公募もした