2019.04.08
# 政治・社会

平成と令和のあいだで…「象徴制やめますか? 続けますか?」

生前退位に込められた天皇からの問い
伊藤 智永 プロフィール

禁断の「直接行動」に至った天皇の無念

次いで「天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」とお断りが挟まれた。現行法制度上、生前退位はできない。

間接表現にしろ天皇が退位の意向を国民に直接表明する行動に出たということは、「国政に関する権能を有しない」天皇が、結局は政府に立法を迫ることに他ならない。一部で違憲性が指摘されたのも無理はない。

 

しかし、憲法遵守を旨とする天皇が、あえて断りながら「禁を犯した」のである。この10年ほどの間、政府が女性天皇容認(2005年)や女性宮家創設(2012年)を検討しては棚上げしてきた徒労と天皇・皇后の無念を想像させずにおかない。この後、生前退位を表明するのだから、それ以上に具体的な皇室制度の問題はない。

つまりこれは、本来ならそれ以外の皇統存続問題についても言いたいことは山ほどあるが、皆が分かっていることだからもう言わない、という意味に聞こえる。言わずもがなの一言を挿入した天皇の真意が、無為無策だった政治に対する言葉にしない抗議でなくて何であろう。

その後に「私が個人として、これまでに考えて来たことを話したい」と続く。元来「天皇に私心なし」を大原則とし、憲法で基本的人権も保障されていない「象徴」が、あえて「個人的考え」を、自らの地位の根拠を構成する主権者・国民一人一人に伝えたいというのである。

「象徴からの逸脱」と批判されかねないのは百も承知、禁を犯す覚悟で肉声の「天皇個人」をさらけだすというのだから、異例のことである。政治への物言いといい、これは大変なことになったと緊張せずにはおれない。

深く練り上げられたテキスト

すでに導入の1節だけでも、これが仕掛けを入念に凝らした精巧なテキストで、目配りの広い緻密な読解を要することが理解される。

テキストから聞こえるのは、読み上げられた言葉にとどまらない。言外・行間から、直接言及されない言いたいことがたくさん聞こえてくる。聞き手の歴史的想像力が試される。

聞きながらいちいち連想が飛び、途中「メッセージ」の意図をとっさに受けとめきれず何度も立ち止まり、散らばった思考が頭の中をぐるぐる回っていると、そのうちに私はまったく思いがけず感情が深く揺さぶられているのに気づいて、自分の反応に驚いた。

在位28年間を回想する中ほどの最もふくよかな1節は、天皇・皇后の長年の二人旅を凝縮した濃厚な物語の朗読のように聞こえ、私自身の人生とも重ねて平成という時代を振り返る時を迎えつつあるのだなと思い至らされた。

天皇の表情や口ぶりはいつも通りゆっくりと穏やかなのに、こちらを見つめる毅然とした目からは固い意志が伝わり、終わってもしばらく火照った頭の熱が引かなかった。

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