「はやぶさ2」はこうして巨大爆弾を「リュウグウ」に打ち込んだ!

山根一眞の科学者を訪ねて三千里【1】
山根 一眞 プロフィール
NASA
  キャンベラにあるNASA深宇宙ネットワークのアンテナ(写真:喜多充成)

11時13分、「インパクタの分離が確認できました」との発表があり、静まりかえっていた会見場は拍手で包まれた。

はやぶさ2
  「はやぶさ2」は10時56分に分離した直後のインパクタの写真も送ってきた(写真:JAXA他)

はたしてこのインパクタは、リュウグウに衝突体でクレーターを作ったのだろうか? 16時30分過ぎ、プロジェクトマネージャの津田雄一さんを初めとする5名の宇宙工学者と1名の科学者がプレスセンターに入場。大型モニターに、DCAM3が撮影した「インパクタ」が衝突し煙のようなものが舞い上がっている写真が表示され、再び会場は大きな拍手に包まれた。

津田雄一
  DCAM3がとらえたインパクタがリュウグウに命中した写真を説明する津田雄一さん(写真:山根一眞)
JAXA
  インパクタ成功の報告会見。ミッションマネージャ・吉川真さん、プロジェクトマネージャ・津田雄一さん、プロジェクトエンジニア・佐伯孝尚さん、DCAM3開発担当・澤田弘崇さん、航法誘導制御担当・三枡裕也さん、探査機システム担当・武井悠人さん、神戸大学教授・荒川政彦さんが並んだ(写真:山根一眞)

冒頭、津田さんがその成功と思いを語ったが、マイクが不調でよく聞き取れなかったため、会場の記者から「もう一度同じことを」とリクエストがあった。津田さんは、戸惑いながら「喜びのメッセージ」を繰り返してくれたので、一同ホッとする。

その津田さんが、「これ以上望むものはない」と語ったのが印象的だった。努力に努力をし尽くして、世界初の挑戦を見事な計画通りに成し遂げたチームの思いを代表する素晴らしい言葉だった。

「初代はやぶさ」が小惑星「イトカワ」でタッチダウンに成功した瞬間、現・宇宙科学研究所の的川泰宣さんがVサインをしたが、その瞬間を見逃したプレスが多かった。そこで「もう一度」やってもらったことを思い出した。

「はやぶさ」の最も長い日と言われたその日、2005年11月26日からおよそ13年と4ヵ月、「はやぶさ2」チームは信じがたい進化を見せてくれたのだ。

すでに判明していることは?

人工クレーターの生成は、小惑星が繰り返してきた衝突がどのようなものかを知るなど多くの科学目的があるが、放射線や宇宙線などの宇宙風化を受けていない表面下の新鮮なサンプルを地球に持ち帰ることが最大の目的だ。そのサンプルには、太陽系の成り立ちや、生命誕生のシナリオが詰まっているからだ。

今回のインパクタのクレーター生成は「工学的」な挑戦の成功だが、「はやぶさ2」は小惑星や太陽系の成り立ち、生命の起源を探る「科学」ミッションだ。

その、本来の目的である「科学」の成果については伝えられることが少ないが、すでにかなりのことがわかっているのではないか……。

2019年2月、私は東北大学大学院教授の中村智樹さん(初期太陽系進化学研究室)を訪ねた。中村さんは小惑星を「NIRS3」で観測するチーム(代表・会津大学准教授の北里宏平さん)のコアメンバーだ。「NIRS」とは「近赤外分光計」のことで「Near InfraRed Spectrometer」の略。「3」は赤外線の波長3μmを中心に観測することから命名された(JAXA・NIRSチーム、岩田隆浩さんによる)。

中村智樹
  2019年2月、中村智樹さんにリュウグウ観測の成果を聞く山根(写真:山根事務所)

NIRS3は、小惑星に反射した太陽光の反射を受け、小惑星の含水鉱物の観測が可能だ。「はやぶさ2」が目標をリュウグウに選んだのは、生命起源物質である炭素化合物を多く含むC型小惑星だっただけに、「NIRS」による観測は大きな使命をもつ。

また、インパクタによるクレーター生成の標的は、「はやぶさ2」の科学目的を満たす岩石がある最上の場所を選ぶ必要があった。そのターゲットの選定でも、「NIRS3」の観測チームは大きな貢献をしているのである。

その「NIRS」による観測ですでに成果を得ているのではと中村さんを訪ねたのだが、やはり、大きな観測成果、そして「謎」に直面していた。

(次回に続く)