はやぶさ2に搭載された小惑星探査ローバーMINERVA-II1がリュウグウ表面において移動中に撮影した画像(写真:JAXA)

隕石1000個を分析した惑星科学者が直面したリュウグウの「謎」

はやぶさ2の科学ミッションを詳細解説

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人工クレーター生成は、ミッションの入り口だった!

小惑星リュウグウの探査を続けている探査機「はやぶさ2」。

2019年4月5日(金)「はやぶさ2」はインパクタ(衝突装置、Small Carry-on Impactor=SCIと略)で人工クレーターを作ることに成功した。

リュウグウ
  写真左・中:小惑星リュウグウにクレーターを作るため衝突装置を運用、リュウグウ表面からの噴出物をDCAM3が捉えた写真と部分拡大(2019年4月5日11時36分JST、写真提供:JAXA、神戸大、千葉工大、産業医科大、高知大、愛知東邦大、会津大、東京理科大)
写真右:噴出物の部分を山根が画像処理したところ、右方向への噴出とともに左には幅広く噴出物が上がっている姿が浮かび上がった(画像ノイズかもしれないが)   拡大画像表示

人工クレーターの生成は、小惑星が繰り返してきた衝突がどのようなものかを知るなど多くの目的があるが、宇宙風化を受けていない表面下のサンプルを得るため、生成したクレーターにタッチダウンし砂粒を地球に持ち帰ることが最大の目的だ(4月22日の週にそのための準備を開始予定)。

もっとも、「はやぶさ2」がリュウグウに到着した2018年6月27日からすでにおよそ280日、9ヵ月以上になる。この間、科学チームは膨大な観測データを取得し続けており、数多くの発見があったはずだ。どんなことがわかっているのか?

2019年2月、私は東北大学大学院教授の中村智樹さん(初期太陽系進化学研究室)を訪ねた。

小惑星リュウグウを観測した結果は?

中村さんは小惑星を「NIRS3」で観測するチーム(代表は会津大学准教授の北里宏平さん)のコアメンバーだ。

「NIRS」とは「近赤外分光計」。「NIRS」は「Near InfraRed Spectrometer」の略。「3」は赤外線の波長3μmを中心に観測することから命名したという(JAXA・NIRSチーム、岩田隆浩さんによる)。

NIRS3は、小惑星に反射した太陽光の反射を受け、小惑星の含水鉱物の観測が可能だ。「はやぶさ2」が目標をリュウグウに選んだのは、生命起源物質である水や炭素化合物を多く含むC型小惑星だからだけに、「NIRS」による観測は大きな使命をもつ。

その「NIRS3」による観測ですでに成果を得ているのではと中村さんを訪ねたのだが、やはり、すでに、大きな観測成果を得ていた。

中村智樹
  東北大学初期太陽系進化学研究室の中村智樹さん。太陽系始原物質の解析に基づく初期太陽系進化の解明がテーマで研究室には約20名の研究者、学生が所属。はやぶさ初号機が地球に届けた「カプセル」の開封を担当し約1500個の超微粒子を発見。それをもとに、「イトカワ」の成立を解き明かした(写真:山根事務所)

だが、中村さんには開口一番、「絶対に話せない」と釘をさされた。

3月に米国のテキサス州ヒューストン市に近いウッドランズ市で開催される「第50回月惑星科学会議」での発表後だ、と(同時に科学誌「Science」で公開)。それでも「話せることもある」と観測のあらましを聞くことができた。

そして迎えた「第50回月惑星科学会議」。3月25日、発表を終えた現地の中村さんと何度も連絡をとり、「NIRS」の観測成果、そして直面する「謎」について聞くことができた。

はやぶさ2
  第50回月惑星科学会議に集った科学者を中心とする「はやぶさ2」のチーム(ウッドランズ市の中村智樹さんから送られてきた写真) 拡大画像表示

山根 NIRS3でどんな観測を?

中村 それをまとめた図を、「月惑星科学会議」での私の発表、“POSSIBLE INTERPRETATIONS OF VISIBLE/NEAR-INFRARED SPECTRA OF ASTEROID RYUGU OBTAINED BY THE HAYABUSA2 MISSION. ”(「はやぶさ2」ミッションで得られた小惑星の可視/近赤外スペクトルの可能な解釈)で発表しました。

山根 3月20日、JAXAが、「Science」誌のウェブサイトにリュウグウの観測成果の論文3編が公開されたと発表、それをもとに新聞などが「リュウグウに水!」と書いていました。でも、「NIRS」の論文は、以前の記者説明会で公表された「水がない」という内容とちょっと違っていて、頭が混乱していたんですが。

中村 記者説明会の内容は初期の観測によるもので、「Science」誌や「月惑星科学会議」で発表した内容は、その後の多くの観測データを解析した結果、初めて判明した内容なんです。