「じぶんでおぼえる」

コーチにおしえてもらったサーブを だせるようになりたい

そう書いて、卓球クラブで「おしえてもらうのではなくて、人のサーブをみてじぶんでおぼえる」と赤字で二重線をひかれた1冊目のファーストノート。

「勉強のノートはきれいに書いていました。きれいにまとめれば達成感もあるし。でも、卓球ではきれいにまとめられないんです。答えがなかなか見つからない。だったら、まずは疑問や悩みを書き出して、それから答えを見つけていこうって思ったんです。すぐ見つかるときもあれば、数日経ってから、あ、わかった! って気づいて書き込んだりしました」

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早田なりに思考錯誤を重ねたことがよくわかる。コーチや親に見せる前提で「いいことを書こう」とか「ちゃんとやってるね」とほめられようと、そつなくきれいにまとめようなどと思ったことは一度もない。その時々の自分の疑問に率直に向き合ってきた。

わかったつもりにならない「究極の自問自答」

そのおかげで、少しずつ自分で考えられるようになり、その思考はコーチを驚かせるまでになったのだ。そう。ノートは成長する。そして、その成長は本人の進化に比例する。

早田のノート。課題や解決法を書き込んでいくが、見返した際にさらにアイデアがあるときは書き足すこともある。徐々に多くの答えを見出していくプロセスがわかる ©カンゼン『世界を獲るノート』より

10秒で切り替えるための力

話は変わるが、2019年1月にテニスの全豪オープンで日本人初の優勝を飾った大坂なおみは、主審のコールからサービスを打つポイント間の25秒間で気持ちを立て直せたことが勝利につながったとされる。

大坂の「25秒の切り替え力」は、きっと早田にも必要だ。そして、長さがわずか2メートル74センチの卓球台を挟んで相手と向き合う卓球では、ポイント間はわずか10秒前後。

相手の息遣いさえ耳に届くヒリヒリするような空間で、より脳内スピードを高めなくてはならない。

「そのためには、思考するための言語を、より短く、コンパクトにすること。そして、要約する力が求められる」

そう話す石田は練習中、早田が質問に答えると「もっと短く、コンパクトに言ってみて」とハードルを高くする。その代わり、自身も早田に説明するときは短く整理して話す。

これは、日本代表の合宿でも続く。

「で? どうすればいい?」
「もっと短く!」

女子代表監督の馬場美香は、そうやって早田にどんどん質問してくるという。

「私が難しく考えるタイプだと知っているんだと思います。馬場さんもシンプルに説明してくれますから。試合しているときパニックになりやすいと、わかっているんでしょう。自分でもそう思うから。他人の試合だと、さっきこうだったからここにサーブ出してくるなってわかるんだけど」

自分が実際にやっているときは、なかなかそこまで読み切る余裕がない。そんなとき、馬場は「今、ここ狙われているよ」「ここ効いてるよ」と的確に伝えてくれる。

男子は予測する能力に加えてパワーが勝負を分けるが、女子は球筋の「読み合い」の比重が高い。

「女子のほうはこうくるから、こういう準備をしておこうという読み合いが重要なんです。読み合いで相手に勝るには、自分で考える力、そして、それをつかさどる言語能力の鍛錬は欠かせません」と石田。

早田に戦術の引き出しがないわけではない。男子顔負けの力強いフォア。バックハンドで強く回転をかけるチキータレシーブ。チキータに限らずバックハンド技術は「この1年間で驚くほど上達した」と全日本総合を解説した宮﨑義仁強化本部長を唸らせた。

可能性があるからこそ、あとは脳内スピードを上げることなど「目に見えないスキル」をつけていくことがランキングアップにもつながるのだ。

伊藤美誠をはじめ、各界のアスリートたちが育った過程を「ノート」というひとつの切り口から分析。具体的なルポに加えて、脳科学者・篠原菊紀氏によるノートの分析がなされ、それぞれの選手や指導者がノートによってどのように力をつけたのかもわかりやすくまとめられている。早田ひな選手のノートについては、本書で早田選手の母親の話や、10秒で切り替えが必要となる卓球の世界でノートが役に立った具体例もさらに触れている。