悩みを吐き出すノート

引き出しと勇気。前者の「アイデアの引き出し」を、早田はノートに整理してきた。

まずは、自分の頭の中にある疑問や悩みをただただ吐き出す。

「ノートにがむしゃらに書くんです。できないこと、わからないこと、迷っていること。技術的なことも、メンタル的なことも、その日の試合や練習を振り返って全部いっしょくたに頭に浮かんだことから書いていきます」

都内で取材に応じてくれた早田ひな ©カンゼン『世界を獲るノート』より

例えば、ノートにはまず黒ボールペンで疑問が並べられる。

――下回転ループやドライブに対してのF(※フォア)カウンターは、前で早く打点捉えて回転を利用するのか。少し足を下げて半拉するのか。
すべてではないが、黒ボールペンの書き込みの下には赤ボールペンで答えらしきものが記入されている。

――両足をさげる時間はない。右手と左手がクロスしそうなぐらいに小さくならないこと。面を開いて、回転を利用する――。

早田を小学生からみてきたコーチの石田大輔は、早田のノートを「吐き出すノート」だと言う。

「ひなは必要以上に考え込んでしまうタイプ。なので、自分の頭の中にある疑問や悩みをいったんノートには吐き出してみて、それを客観視して解決しようとしています。黒色が課題、赤がその時点での答えとして書かれている。考えたことは言葉で表現するわけなので、言語能力は重要。それをノートで養ってきたんでしょう」

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「わかりません」連発の中学時代

そう分析する石田によると、早田は中学1年生くらいのころ、「わかりません」を連発していた。
 
石田「いま右足下がったよね?」
ひな「わかりません」
石田「集中してないよ」
ひな「わかりません」
石田「声出てないよ」
ひな「わかりません」

思春期にありがちな不器用な自己表現だったのかもしれないが、石田は、この「わかりません」に手を焼いた。

しかし、後に石田は、リオ五輪で競泳日本代表の監督を務めた平井伯昌が自分と似たような体験をしていたと聞く。

平井が女子選手に「いまどうなの?」と尋ねると、「わかりません」と発することが多いと言うのだ。

「今の子独特のリアクションなんでしょうか。相手が望んでいる回答でなかったらどうしようと不安になるのか。わかりませんと言えば、すぐに大人から教えてもらえるからなのでしょうか」

答えは出なかったが、石田は「わかりません」と言われても、問いかけ続けた。

「この取材で初めて(早田の)これまでのノートを見たのですが、訓練してきたんだなあとビックリしました。あんなに『わかりません』を連発して、人任せに見えたのに、自分で考えて答えを見つけ始めているのですから」