ジャーナリストの島沢優子さんが上梓した『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』には、長くスポーツの育成現場を取材し続けてきた島沢さんならではの視点から生まれた「主体性の処方箋」が散りばめられている。

前回の記事では卓球の日本女子代表・伊藤美誠選手のノートについてご紹介した。伊藤選手は中学生のころからノート作りをするようになったが、6歳から継続している選手がいる。それが、伊藤選手と組んだダブルスで昨季世界一となり、先日Tリーグ初代MVPを獲得した早田ひな選手だ。

中学生時代には「わかりません」としかコーチに応えなかったという早田選手は、「ノートのおかげで今の自分がある」言い切る。それはどういうことなのだろうか。『世界を獲るノート』より一部抜粋して掲載する。

Photo by Getty Images
はやた・ひな 2000年福岡県生まれ。日本生命所属。16~17年は膝痛で試合に出られない時期もあったが、17年11月スウェーデンオープンダブルスで伊藤美誠と組み世界ランク1、2位の中国ペアを下して優勝し注目される。166センチの大型サウスポー。ITTF 世界ランキング最高位11位。19年1月現在45位。

6歳からの「たっきゅうノート」

ゆうしょうできて よかったです。つぎのしあいまでに れ(ど)んどんコーチにおしえてもらったサーブを だせるようになりたい(原文ママ)

鉛筆書きのかわいらしい文字。早田ひなが小学1年生、6歳のときに書いた「たっきゅうノート」に綴られたものだ。ここから12年。積み上げられた20冊が、世界へはばたく翼をつくった。

6歳のときに書いたノート。母の康恵が「振り返りになるから」と勧めた。以来、自分の意思で書き続けている。「小さいときは見せてくれたので、ノートを読むと成長が感じられ嬉しかった。今はもう見せてくれません(笑)」と母 ©カンゼン『世界を獲るノート』より

2018年シーズン、早田はひとつの大きな成果を出した。卓球のワールドツアー年間王者を決める12月のグランドファイナルは、伊藤美誠と組んだ女子ダブルスで初優勝。明けて1月の全日本総合では伊藤とのダブルスで2連覇を成し遂げたほか、シングルスで世界ランキング3位の石川佳純を下した。準決勝で、最終的に優勝した伊藤に敗れたものの、1年後に決まる日本代表入りへ猛アピールした。

早田は「(自国開催である)東京五輪は特別な思いがある。なんとしても出場して金メダルを獲りたいです」と意気込む。

そのために1年間で取り組むのは「判断スピードを上げること」だと言う。

例えばサーブに入るときは数秒で戦術を組み立てなくてはならない。どのサーブにするか、そのサーブで相手がどう反応してくるか。まるで将棋のように数手先まで瞬時に頭に描くのだ。

卓球の一般的な大会の場合、サーバーがサーブを出す前にボールを何度もついたりしてなかなかサービスの動作に入らなかったり、レシーバーが構えに入らない場合は「故意の遅延行為」とみなされ注意される。繰り返されるとペナルティーが与えられる。

18年に始まったTリーグでは、主審が得点をコールしてから20秒以内にサービスを開始しなければ反則になる「20秒バイオレーション」が適用された。テニスの25秒と同様のものだ。

卓球は百メートル走をしながらチェスをするようなものだ

世界選手権で12個の金メダルを獲得し日本卓球の礎を築いた故・荻村伊智朗がこの言葉を遺こしたように、卓球は瞬時に戦術を考えて判断しなくてはならない。

「接戦になるとアイデアが浮かんでこなかったり、ひとつのことにとらわれて考え込んだりしているうちに(試合が)終わってしまう。頭のなかにアイデアの引き出しを増やして、浮かんだものを決断して実行する勇気をもたなくちゃって思っています」