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「妊娠は病気じゃない」の意味、日本とフランスでこんなに違います

フランスに探る男女連携社会の作り方③

男女平等を力強く推進し、「グローバルジェンダーギャップ」のランキングを短期間のうちに駆け上がったフランス。本連載「フランスに探る男女連携社会の作り方」は、フランスに男女の〈連携〉の在り方を学ぶ。

(これまでの連載記事はこちらから)

妊娠は病気じゃないんだから甘えるな

「おめでたですね」

医師が妊娠を告げるシーンで使われる、この定番の表現が私は苦手だ。私自身子どもが二人いて、彼らに恵まれたことは幸運だと思っている。が、そのための妊娠出産体験には、苦しい思い出が多いからだ。

私はフランスで妊娠、出産したが、妊娠中は不定愁訴の連続だった。始終うっすら吐き気のするつわりが数ヶ月続き、お腹が出始めると股関節神経痛に見舞われ、歩くたびに激痛が走った。

おまけに妊娠期間特有の糖代謝異常「妊娠糖尿病」も罹患していた。後期は胎動が激しく夜も熟睡できない。とにかく全身のどこかが常に、しんどかった。それでも胎児の成長は順調で、妊娠糖尿病以外は「正常な妊娠」の範疇だった。 

しんどいのは体だけではない。お腹の子に何かあっては、との不安から、転倒の危険がある階段の上り下りでは毎回緊張した。一度流産をしてからは、トイレに行くたびに出血が不安で肝を冷やした。

何かあったら傷つくのは、私と胎児だけではない。子の誕生を待ち望む家族を横目に、責任感で泣きたい気持ちになったのは、一度や二度ではなかった。つくづく、私にとって妊娠は「めでたい」だけではなかったのだ。

妊娠中、そんなしんどさを祖母に漏らしたことがある。すると国際電話の向こうの祖母は、語気を強めてこう言った。

「妊娠は病気じゃないんだよ。大げさな子だねぇ。甘ったれたことを言って!」 

とっさに私は何も言い返せず、モゴモゴと言葉を濁して話を変えたように思う。その言葉の衝撃は強烈だった。そして衝撃が過ぎた後は、ひたすら悲しかった。この辛さが「甘ったれたこと」だって? 妊娠は病気じゃないなんて、誰が言ったの? 心も体もこんなにしんどいのに!

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妊婦のしんどさを理解しているフランス社会

祖母の発言が衝撃だったのは、私がそれに慣れていないせいもあった。フランスでは、妊娠出産に伴う不調や辛さを訴えて、祖母のような対応をされたことは一度もなかった。いや、より正確を期すなら、前半は同じだったが、後半が正反対というくらい違った。

フランスでも「妊娠は病気ではない」の認識は一般的だ。しかしそのあとは「だから大変だね」と続く。最初の妊婦健診で産婦人科医に受けた説明から、バスや地下鉄の中、スーパーマーケットのレジ待ちの列に至るまで。

妊娠は病気じゃない。だが、いつ重大事になってもおかしくないリスクを伴い、不快な症状も治療できないものが多い。それらは無事出産が終わるまで、どうしようもないことだ。そりゃあ大変だね。なるべく負担は少ない方がいいね、と。

妊娠をめぐる制度面でも、同じ認識をいつも感じた。妊婦健診と分娩関連費は全額、国民医療保険の対象で、立て替え支払いもない。つまり、自己負担はゼロだ。

 

妊娠6ヶ月からは、妊娠に関係ない疾病の医療費も全額、医療保険でカバーされ、これもやはり自己負担はない。国内の出産施設の7割は保険適用範囲内の公立病院だ(公立は自己負担ゼロ。私立病院では、部屋代やエコーなど基本医療費以外の料金が追加されることがある)。

公立病院の部屋や食事は平均的な疾病入院と同様かなりシンプルだけれど、医療面や安全面で問題はなく、助産師の育児サポートもしっかりしている。

ちなみに出産の際の無痛分娩(硬膜外麻酔)は90年代から妊婦の全員の「産科医療の権利」となり、こちらも自己負担はゼロで選択可能だ。2016年の調査では、経膣分娩(お産全体の約8割)の79%が無痛分娩だった。

それらの医療費の公的負担に加えて、子ども一人当たり12万円ほどの出産祝い金が支給される。

そんな環境で妊娠出産を経る間、「しんどさが、社会に理解されている」と、私は感じていた。その上で妊婦の負担をできるだけ減らせるよう、制度が作られているのだと。